保母さんと園児たち

保母さんと園児たち 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

関東地方周辺の、ある河川上流にての話。
その川の上流は、片側が切り立った崖がそそりたち、もう一方の川岸はアスファルトを敷いた遊歩道になっている。
散策を開始したのは午後に入ってからだ。

流れに沿って、ひたすら上流にまでさかのぼる道で、2時間ほど歩いた地点で少し揉めた。
4人で来ていたのだが、田舎育ちの俺は、

「来た道を引き返すのにも、また2時間かかる。
こういう場所は陽が落ちるのが早い。
今引き返さないと、日の光があるうちに入り口の時点まで戻れない」

そう言った。
しかし、東京育ちで平素、山にも谷にも行かない同行者たちは、街灯のない所で陽が落ちると、どうなるのか全く想像できないようだった。
引き返すにしても、別のルートから帰ろう。
せっかく来たのだから、もう少し先へ行こう、などと言う。

どうにも理解してくれないので、かかとを返して下流方向へと歩いた。
全員揃って、ここで日没を迎えたら、にっちもさっちもいかなくなる。
ならば1人だけでも遊歩道の入り口に戻っておけば、車で残った者を迎えに行けると考えた。

陽が傾きかけると山の渓流は、すぐに薄暗くなりだした。
切迫感に駆られて、俺は競歩ほどの速さで急いだ。
谷は、どんどん暗くなっていく。
しまいには駆け出した。

集落に着く前に、闇の中で歩けなくなるのでは。焦りと苛立ちがつのる。
遊歩道に俺以外の観光客の姿は、もうない。
心細く焦る耳に、歌が聞こえてきた。
幼い子の合唱する声だ。

夕焼け小焼けで日が暮れて~
やぁまのお寺の鐘がなる~

ギョッとして背後を見たら、50歳代の保母さんと、体操帽にスモッグを着た幼児たちがいた。
保母さんと目が合った。
俺は、ずっと一本道をここまで歩いてきた。
その間、1人だった。
それに俺は走っていた。

保母さんと園児たちは、俺が遊歩道の入り口を出たすぐ後に、歌と共に、遊歩道から出てきた。
戸惑っていると、連れが俺の後ろから、息を切らせて駆け寄ってきた。
帰りの車の中で、

「幼稚園児いたよな?」
「歌、唄ってたよな?」

と聞くと、3人とも、

「居なかった」

と答えた。
そういえば、現れた時と同じように、こつぜんと居なくなっていた。
幽霊を目撃したというより、異なる日付けに同じ場所の同じ時間にいた者同士が、有り得ない鉢合わせをしたような感じだ。

なぜ、あの保母さんは俺を見たんだろう・・・。
なぜ、俺だけ、あちらを見ることが出来たのだろう・・・。

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