山での親父

山での親父 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

俺がまだ小学生だった頃、親父と一緒に渓流釣りに行った。

俺の親父は絵にかいたような超まじめなサラリーマンで、冗談なんか一切言わない人だった。
ルックスも七三分けで銀縁の眼鏡をかけているぐらいの徹底ぶり。
そんな親父と一緒に俺は渓流釣りに行った。

その日はかなり山奥まで歩き、なかなか良さ気な滝壺を発見した。
親父もここにするかというように荷物を降ろし始めた。
そしておもむろに服を脱ぎ始めた。
上着、シャツ、ズボン、パンツと順番に。
そして全裸になると、音も立てずにスーッと水中へ潜って行ってしまった。

「えっ?」と混乱して立ちすくむ俺。
季節は夏だけど海水浴なんかと違い、渓流の水はかなり冷たい。
しかも親父は運動音痴で泳げない。
なにこれ?
そんなことを思っていると親父がゆっくり水面に浮上してきた。
そしてなんと右手にはイワナを掴んでいる。

素手!?

「父さんスゲーよ!手で取ったのそれ!?」

と驚く俺を無視して、親父はまた潜った。
そしてわずか数分で十匹近いイワナをゲットして、親父は無言で帰り支度を始めた。

一体彼はどういうつもりなんだろうと問いただすが完全シカト。
ビチャビチャな身体のまま服を着始めた。
俺もその時は親父の神テクにテンションが上がっていたので気にしなかったが、あの時の親父はどう考えてもおかしかったと思う。

最近になってそのことを親父に聞いたが

「素手で魚をつかまえられるわけがないだろう」

と一蹴された。

実際に素手でつかまえる人もいるけど、スーパーでパックされた魚すらまともに触れない親父がそんなことを出来るとは思えない。
おそらくあの時だけ山の神が親父に憑依したと俺は考えているが皆さんはどう思うだろうか?

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