ついてきてしまった

ついてきてしまった 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

これは私が23歳くらいの時の話です。
その夜は女友達と車で夜景でも見に行こうか、という話になり、割と標高が高く、頂上から眺める夜景が綺麗な山に昇る事になりました。
ちょうど山道に入る入口の近くまで車が着た時、横道に大きな鳥居が見えました。
その鳥居を通り過ぎて5分くらい山道を昇って行っていると、女友達がボソッとこう呟きました。

「さっきの鳥居のとこに着物姿の女の人がいた」と。

言い忘れましたがこの彼女は、霊感が非常に強い女性で、霊を見るのは日常茶飯事だったそうです。
彼女は当時病院勤務だったのですが、エレベーターに1人で乗る時、霊にガッと肩を掴まれて、エルボーで即反撃するほどのツワモノでした。
かつての入院患者の霊に大してエルボーかます方もどうかと思いましたけど。
まぁ、その患者は生前からセクハラ患者だったらしいので良しとしましょう。

話が少々逸れましたが、私は「へぉ~、鳥居に着物姿の女か。雰囲気あるね~」と言いました。
それで、顔は見たのか?と聞くと、「顔が半分なかった」と言う恐ろしい答えが返ってきました。
顔が半分無いって事は、こう、真っ二つに唐竹割りされたみたいに、半分顔がないのか?と聞くと、いや、鼻から上がないんだ、というさらに末恐ろしい答えが返ってきました。
あまりの恐ろしさに私は沈黙するしかなく、頂上に着くおよそ20分間は、山道に急に飛び出てきたウサギを見た時の、「あ、ウサギだの」と言う発言しかなかった程でした。

ひとしきり夜景を楽しみ、深い関係だった私たちは、私のゴールデンボールを軽くする程度の小休止を山でし、再び山道を降りる事にしました。
やがて下の道まで降りて、いやがおうでもその鳥居が視界に入ってきました。
私はとても「まだいるか?」とは聞けませんでした。
彼女も意図的にか、別の話題で盛り上がっています。
寒い日だったので、彼女の家で少しお茶でも飲んで帰ろうか、と言う事になり、彼女の家に到着しました。
小一時間ほどお茶を飲みながら話し、さぁそろそろ帰ろうかと言う段階になると、彼女がポツリと言いました。

「ごめん、ついてきてしまった」と。

急に言われた私は、なんの事かいな?と首をかしげていると、
彼女がすかさず、「あの女の人」と言いました。
なんですとーと私は思いましたが、彼女が私をからかってるんだと最初は思いました。
が、そこからさらに話す彼女の真剣な声のトーンや、霊的な事でウソをつくような女性でも無かったので、私は信じる事にしました。

「大変そうだけど、頑張ってね~。数日経ったら消えるんじゃね~?」と彼女ににんぴ人のような事を言い放ち、私は帰ろうとしましたが、はたと足を止めました。
もし私についてきたらどうしよう、と思ったのです。
試しに彼女に「その女性、いまどこ?」と聞くと、「TVの横に立って、あなたの方を向いている(目がないから体の位置で推測)」と言いました。
女の動向を見ようと私が廊下を歩き、玄関で靴を履き、ドアを開けて外に出て、「今ドコ!!」と再び聞くと、「玄関の前に立ってる。あなたの目の前」と言いやがりました。
ここまでなら「彼女が怖がらせようとウソついてるんじゃね~」と言う可能性もまだありますが、私は見てしまったのです。
玄関の姿見に、自分が移り、その自分の心なしか斜め前に、着物姿の女が立っていたのです。
鼻から上がスパッと一直線に無く、ニッと笑った口元から覗く歯は、お歯黒を塗ったようにベットリと黒かったのを覚えています。

ショックで固まる私が途方にくれていると、私のにんぴ人思考が移ったのか、彼女もとんでもない事を言いだしました。
「誰かになすりつけたらよくない?」と。
あまりの恐怖に他人の事など考える余裕がなかった私は、すぐさまその悪魔の案に乗りました。
彼女の部屋はマンションの3F、上の4Fに松平さん(仮名)という熟年夫婦が住んでいたのですが、松平さんは彼女と非常に仲が良く、私も顔くらいは知っており、小話も何度かした経験がありました。
その松平さんに彼女が本を借りているので、一緒に返しにいってちょっと女の動向を見てみよう、というにんぴ人スタイルです。

彼女が借りていた本を小脇に挟み、2人で玄関を出ました。
5mくらい歩いて「今ドコ!!」と聞くと「ケツにピッタリ!」と言う答えが返ってきました。
エレベーターに乗り「今ドコ!!」と聞くと「真横!!」と言う答えが返ってきたので、生きた心地がしませんでした。

やがて私たちは4Fに到着し、松平さんの玄関の前までやってきました。
ピンポーンとチャイムを押すと、ほいほい~と人の良さそうなオッサン声が聞こえました。
松平さんです。
本を返しにきた事を告げ、私はトイレを借りるていで部屋に上がりました。
恐怖でオシッコなど出ないかと思いましたが、いざトイレに入ると、すんなり放尿出来て、30秒くらいで出ました。
彼女と松平さんが談笑しています。
やがて私たちは松平さんに別れを告げ、玄関を出ました。
とりあえず、無言でエレベーターまで歩きます。
箱に乗った瞬間、私は祈るような思いで彼女に聞きました。

「今ドコ!!」

彼女はバツが悪そうな笑みを浮かべて、「松平ハウス!!」
と答えました。流石に自分可愛さには勝てません。私はホッとしてその日は自分の家路につきました。

後日談になりますが、その後数年間も松平夫妻と親しい付き合いを続けていた彼女いわく、その後松平夫妻に不幸があったなどと言う事も無く、むしろ会社の経営も順調で絶好調なくらいだったそうです。
例のなすりつけ事件から1週間後、彼女が松平さんにカマをかけて聞いてみたそうです。

「最近怖い話というか、何か変わった事ありませんか?」と。

すると松平さんは、

「怖い話かぁ~、あんたも好きだね。怖い話はないけど、変わった事なら・・・
最近女房が、そんなに使ってもない口紅の減りが異様に速い、ってボヤいてたなぁ」

と言ったそうです。
と、そんな日に限って、何か小さな良い事が同時に起きていたようです。
(絶対に昼休み中は並ばないと入れない人気店に並ばずに入れたり、お金を拾ったり、など)

もしかしたら神様的な霊だったのかもしれません。
そう考えると例のにんぴ人根性がムラムラと湧いてきて、失敗したかな、と思いました。
その後、何度も松平宅にお呼ばれした彼女いわく、部屋の中にあの女性の姿も気配も、見る事はなかったそうです。
私の話はこれで以上です。

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