以前、私がある独身寮に住んでいたときに体験した出来事です。
夜中に尿意をもよおし目が醒めました。
酔って帰って来て、そのままの格好で寝ていたようでした。
風呂・トイレは共同でしたので廊下に出てそちらに向かいました。
が、トイレの前まで来たときに急に激しい腹痛に見舞われたのです。
よろよろと個室に入り便器にまたがったのですが、いざとなるとなかなか出ない。
どころか痛みの感じが下痢なんかとは何がか違う。
しばらく、そのまま唸っていたのですが、その痛みが突然止んだのです。
「あれっ!?」と思ったのですが、まぁ治ったのですからヨシとして用を足し個室を出ようとドアノブに手をかけました。
ノブに伸ばした指先に異様な感触が伝わってきたのです。
生温かいヌルりとした感触でした。
ギョっとして、よく見ればドアノブが血まみれになっており、それを掴んだ私の手も真っ赤に染まっていたのです。
一瞬、頭が真っ白になったのを憶えています。入ったときには、こんなものは無かったはずです。
ノブには入ったときに鍵を掛けていたので間違いありません。
呆然となった私の目の前に何かが落ちて来ました。
ドアノブにポタポタっと。血です。血が上から滴り落ちて来てノブを濡らしていたのです。
自然にその先を目で追い、とうとうソレを見てしまいました。
個室の仕切りと天井の隙間から覗いていたもの。
生首です。
血の気が失せた不気味な顔色の生首が口元から血を垂らしながら、私を睨んでいたのです。
そこから先の記憶はハッキリしません。
たしか、絶叫をあげたような気がするのですが後で寮の者に聞いても、そんな声は聞こえなかったと言っています。
私は気を失いトイレで倒れているところを翌朝になって発見されました。
のちに話を聞いたのですが私が入寮する五年前の同じ日に、そのトイレで倒れてそのまま亡くなった方がいたそうです。
死因は仕事から来るストレスにより胃潰瘍が悪化した胃癌。
仕事に追われ健康管理が出来ていなかったらしいのですが会社からは遺族に対してたいした補償も無かったようです。
この日以来、私も体調を崩し仕事を休みがちになり半年ほどして、その会社を辞めました。
今は実家の近くの工場で事務方の仕事をしています。