おかしな彼女

おかしな彼女 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

平成初頭、自分がまだ高校生の頃付き合った彼女の話。
高1の夏休み前に父親の会社が倒産した。
家計が厳しくなり学校に許可をもらい、近所の仕出し弁当を作っている工場でバイトをすることに。

昼は学校、そのまま夕方~夜は工場でバイト。
そんな生活が続いた。

父親は仕事から解放された喜びからか、就活するどころか毎日遊んでいた。
必死に働く自分とは裏腹に毎日遊んでいる父親を見てイラ立ったが、落ち込むよりはいいということで、そのままにしておいた。

そんな生活が秋くらいまで続いて失業保険も終わり、あせらないといけないはずの時期になっても父親は就活もしないで毎日遊びに行っていた。

ある日、そんな父を見てか、母親が貯金を持って蒸発してしまった。
母親もパートで家計を手伝っていたので、蒸発した悲しみよりも先に生活が心配になった。
それから母親が戻らず2週間くらいたった頃、「ちょっと母さんを探しに行ってくる」と父親も蒸発してしまった。

結局二人とも帰ってくる事はなかった。
いきなり一人ぼっちになり、お金も手持ちの分しかなかったので、さらに生活が厳しくなり、高校も休業しバイトに専念することになった。
その時は高校も休学してバイトをフルタイムで出来るし月15万くらいあるし、持ち家だから余裕だろと生活に関しては楽観的に考えていた。

実際の生活はギリギリで、風呂も入らず、服も洗わず、工場の弁当をもらって食べるという生活が続いたりもした。
両親を思い出して泣いたりもした。
友達もいなく、頼る当てもなく精神的にも肉体的もつらかったが、たまに父方の祖父と祖母が来て世話をしてくれた。
一緒に暮さないかと誘われた事があったが、「もうちょっと待って両親が帰って来なかったらお願いします」とか言った。
なんでそんな事言ったのかは忘れたが、そう言いながら後悔してたの覚えてる。
両親の事はすでにあきらめていたし、まぁ、その時は不幸のどん底で、人間不信にでもなっていたんだと思う。

バレンタインの日、バイトから上がろうとしていたら職場の年下の女の子からチョコレートを渡され告白された。
もちろん自分はOK、付き合う事になった。
ずっと誰とも話さなかった毎日の反動からか、彼女とはケンカもなく本当に幸せな毎日を送れた。
彼女は独特な世界観を持っていて、考え方とかも他の人と変わっていた。
会話が噛み合わなかったりしたけど、それが逆にケンカをしないですんだ理由かもしれない。

春頃に彼女が家にいさせてと深夜に家にやって来た。
話しを聞いたところ父親の借金が原因で家を追い出され、そんな父が嫌になり逃げてきたらしい。
俺の家はボロい家だったが彼女と一つ屋根の下、二人暮らし。
夢の様な願ってもないチャンスだったのでOKし同棲生活が始まった。

次の日の朝、俺がボーっとしてたら彼女が変な事を言い出した。

「私、人の心が読めるんだ。今さ、頭の中で〇〇の曲歌ってたでしょ?」

俺はあっけに取られながらも、寝ぼけて鼻歌でも歌ってたんだろうな…とか考えてた。
だが、俺の考えとは裏腹に彼女は何かあるたびに俺の頭の中を覗いて来た。
俺は恐怖もあったが、また一人になるのも嫌だし同棲生活は楽しいし続けていた。

彼女が家に来てからおかしな事が起こり始めた。
家の隣の畑から深夜お祭り音がしたり、夜寝ようとすると隣の部屋から変な音するし。

そんな狂った生活が続き、季節は夏へ。
彼女はもっと変な事を言い出した。

「前に人の心が読めるって言ったけど、実はあれは嘘で慎二の近くにいると慎二の心が聞こえるんだよ。
他の人も聞こえるって言ってるし」
「でも私は慎二の事を好きなのは変わらないし、本当に今まで嘘ついててごめん」

俺も「嘘だろ?」と言ったが彼女は真面目な顔してるし本当の事だと信じた。
凄く怖くなって、俺はそれから何も考えないようにして「ちょっと出かける」と言って家を出て、人のいないような農道をフラフラと歩いていた。

日も落ち始めた頃、やたら空がまぶしくなってきた。
俺はボーっとその空を眺めていた。

それからしばらくして気が付いたら病院のベットの上だった。
近くに看護婦さんがいたので話しを聞いた。
俺は自分が熱中症で倒れたんだと勝手に思っていたがどうやら違ったようだ。
それどころか、この病院に入院してすでに1年近くたってる、さらについさっきまで起きてて、何か行動してたらしい。
もちろん俺には記憶がいっさいない。
外を見ると初冬って感じで寒そうだった。

さっきまで夏だったよな…とか混乱する俺の元へ医者の人がやってきて状況を説明してくれた。
高1の年明けに自宅で撹乱状態の俺を、たまたま世話に来た祖母が見つけ、そのまま119番してくれたらしい。
正直、さっき家を飛び出して熱中症で倒れたと思ったのに、こんな事を話されても理解出来ない。
そもそも高1の冬って彼女と出会う前だし、じゃあ彼女との記憶は?
そもそも彼女は存在しないのか?
平静をよそおってたが頭の中はほぼパニック。
ベットの中で頭を整理しても整理しても全然理解出来なくて、一週間くらい食事もほとんど食べられなかった。

でもよく考えるとバイト先に高1の自分よりが年下の彼女に会うことはありえないし、あの生活自体矛盾だらけだったし現実を受け入れざるを得なかった。
一時は自殺しようとも考えたが、結局ビビりな自分では死ねなくて、今まで統合失調症の治療をしながらダラダラと生きてます。

今でも彼女の事は好きだし、夢であの同棲生活を見たりする。
そして泣いたりする。
おかしな彼女も、そんな彼女を持った幸せな自分も、まだ違う世界で幸せに暮してるのかな?とか思ってみたり。

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