東京と言えどタヌキが住んでいるもので、うちの隣の小さな公園にもタヌキが住みつき始めた。
たまに家の庭にも親子連れで来るので、私たち一家で微笑ましく見守っていた。
ただ、警戒心は犬や野良猫なんかより強く、なかなか近くでお目にかかれることはなかった。
深夜散歩していると見かけることがあるがこちらの存在に気付こうものなら猛ダッシュで茂みに入っていってしまう。
私としてはタヌキが近所にいるだけで嬉しかったのだが、ある日、阿鼻叫喚する事件が起きた。
早朝の公園で、タヌキの死体が発見された。
カラスがギャーギャー騒がしく何事かと思い来てみれば、タヌキの死体であった。
それも明らかに自然死の状態ではなく、何者かに殺されたようだった。
頭部はかろうじて残っているが、とりわけ腹部の損傷が激しい。
腸やら内蔵が引きずり出されていて、数メートルに渡って散乱していた。
あまりにも無残。猟奇的。
いろいろと考えたが、人間の犯行として間違いないようだ。
住宅街にタヌキの天敵と呼べるものは自然にはいない。
損傷の仕方も明らかに刃物。本来なら怒るところだが、それを通り越して私は恐怖を感じた。
それほど残忍な殺され方だったからだ。
これがもし人間だったのなら・・・
近所の人がどこかに通報したそうで、死体はその日のうちに片付けられた。
少し気になったのは死体のそばにメモが落ちていたことだ。
まるで死体に添えるように。
しかし、その紙には「ワ」と読めるような字が一文字書いてあるだけで、別に死体とは関係のないものだろうと、そのときは思った。
しばらくは凄惨な死体を忘れることができなかった。
1ヶ月ほどして、ようやく忘れかけてきた頃に私はあることを閃いた。
あのメモ。「ワ」。タヌキとつなげれば「ワタヌキ」「腸抜き」。
言葉遊びかよと思ったが、確かにそれを表すような死体であった。
そんなことのために殺したのだろうか?
あまりにも酷すぎる。
それにしてもあの警戒心の強いたぬきをよく捕まえて殺せたのだと思う。
犯人が人間だとは思えない。
実際にタヌキの腹に手を突っ込み、内蔵を引き出している姿を想像しただけで怖くなる。
今に至るまで犯人は明らかになっていない。
そして、今ではタヌキを見かけることは無くなった。
最後に1つだけ言い忘れたことがある。
そのメモ。うちの家族で使っているメモなんだ。