ある筈のない物

ある筈のない物 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

小さい頃、多分、小学校に入って間もないくらいの頃だったと思う、四捨五入すると40年近く前の話。

年子の妹は幼稚園児で、俺は小学校に入ってからもよく妹とつるんで遊んでいた。
妹とはよくある女の子の遊び(おままごととか)以外にも、割とアグレッシブに外で遊ぶことも多かった。

で、ここから話の本題に入るんだけれど、あるとき、家の近くに住んでいるお爺さんお婆さんの家に招かれて、お茶とかお菓子とかご馳走になることになったんだ。

細かい話の経緯はあんまり覚えていないんだけど、全く知らない人のお家に上がってお菓子を食べてる記憶しかない。
誰彼かまわず挨拶してたからかな?
お爺さんはとんでもないエロ爺さんで、小さい俺や妹を可愛い可愛いと言いながらペタペタ触ってた。

お婆さんはお婆さんで、

「嫌だねこの爺さんは、とんだエロ爺さんだよ」

とか言いながら、お茶を淹れてくれたりした。

両親に話すと最初は少し警戒していたようだったが、やがて直接顔見知りになったようで、遊びに行くときには前もって用意してくれたお土産を持っていくこともあった。

不思議なのは、今から思い出してもお爺さんが持っている筈のない代物を次々に見せてくれたことだ。
今なら不思議でもなんでもない物なんだろうけれど、お爺さんはスマホのようなもの?を持っていた。

写真や音楽が中に入っていて、それを見せてくれたり聞かせてくれたりするわけだ。
手で巻き上げるタイプの、子供にとってはとても重たいカメラが最先端だと言われていた時代。
今から考えると、針金みたいなアンテナがテレビの上に付いている時代にそんな物があるわけない。

それにゲームも中に入っていて、白黒ではない鮮やかな色がついたゲームに俺は夢中になった。
そういうものでひとしきり遊んだ後、俺はお爺さんに教えてもらって将棋とかトランプで遊んだりもした。
妹は妹で、小さなおままごとのキッチン玩具?みたいなものでお婆さんと遊んでいた。

よく、マジックテープの付いた野菜をサクッと切ったり、プラスチックの鍋とかに入れてツマミを回すとことこと音を立てた後、チンッて音を立てるような玩具があるだろう?
あれが少し大きくて本当に火が点いて、本物の料理が出来上がるようなものを思い浮かべてほしい。

包丁はプラスチックみたいな小さいやつなんだが、

「別に手を切る心配はないからやってみなさい」

と、お婆さんは妹に教えていたようだ。

ちなみに、野菜は本物なんだが普通にサクサク切れる。
あとはプロペラの付いた小さなブリキ製の飛行機とかがあって、割と重みがあるのに空を飛ぶ。
小さな頃は全く疑問に思わなかったけど、今思い出してみるとあり得ない物ばかりがあった。

「お父さんお母さんや友達には教えてはいけないよ」

と、お爺さんは冗談めかして言っていた。

その内、お爺さんは少しずつ元気がなくなっていって、あまり動かないようになっていった。
それでもやっぱり少し捻くれたエロ爺さんだったので、お婆さんは相変わらず困ったように笑っていた。

小学校3年の頃、引越しで転校することになったことを話したとき、お爺さんは

「これ(スマホみたいな物)を思い出に持っていくかい?」

と聞かれて、また来るから必要ないと断ったことははっきり覚えている。
それから何度か遊びに行ったことは覚えてるけれど、その後どうなったかはあまり思い出せない。

何か変なものを見たとか、幽霊っぽいのと手をつないでトイレに行ったりだとか、そういった子供の頃の思い出は幾つかあるんだけど、両親も兄妹も覚えている不思議な話という意味では、真っ先にこれを思い出す。

ちょっと内容の補足というか、貰わなかった理由とかをつらつらと。

『スマホみたいなもの』と書いた理由としては、写真や音楽をそれで楽しめた記憶はあるのだけど、誰かに電話をしたりメールを送ったりということが出来たという記憶は一切ないため。
表示されている絵が微妙に立体的に見える、見る角度で表示されている絵が変わるとか、今現在出回ってるスマホとも機能が違うので、『スマホみたいなもの』と書いた。

この辺りは少し曖昧な記憶になってしまうんだが、小学1年生頃にファミコンが発売されたばかりで、うちの場合はファミコン本体じゃなくて、テレビとファミコンが合体してるような代物を父が買ってきた。
ポパイの算数あそびとか、そんな名前のソフトが付いていて、小学1年の俺は掛け算とか割り算とか習ってもいないから、まるでクリアできずに悔しい思いをしたことを覚えている。
兄がゲームウォッチという白黒のゲーム機で遊んでいたのも同じ頃じゃなかったかなぁ…

子供ながらにそういったものが高価なものなんだろうっていう察しはつくから、欲しいけど断ったわけ。
あまりに高価なものはくれると言われても簡単に貰ってはいけない、と親から言われてたからね。

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