オークションでバイクを買いました。
外見は綺麗だし、走行距離もそれほど多くなくて。
しかも、考えられないような値段で落札出来たので、嬉しかったんです。
前から欲しかったバイクでもあったので、それは嬉しくて、休日は必ずツーリングに行くようになりました。
それまでの移動手段が自転車だった僕にとって、バイクは行動範囲を飛躍的に広めてくれました。
おかげで県外の友達も出来、それはそれは、楽しい日々を送っていたんです。
しかしある日、脇道から出て来た車に接触され、事故ってしまいました。
この事故で、僕は両足を骨折してしまい、入院を余儀なくされました。
事故の原因は全て先方にあるという事から、入院費やバイクの修理代は全て、先方がもってくれる事になったのですが。
既にバイクが体の一部のように感じていた僕にとって、バイクに乗れない日々は、とても苦痛にしか思えませんでした。
そんな僕を励まそうと思ってくれたのか、毎日のように友人が見舞いに来てくれました。
少しは気が晴れてきた時、一人の友人が口にした言葉に僕は耳を疑いました。
「あれ?彼女は見舞いに来てくれないのか?」
彼女?自慢にはならないけど、と言うより悲しいことなんだけど、僕は彼女いない歴21年なんです。
でも、友人はみんな口を揃えてこう言うんです。
「ホラ、いつも後ろに乗せていた彼女だよ。ポニーテールの・・・」
全く覚えがありません。
そして僕は気が付くと、バイクを売ってくれた取引相手に電話をしていたんです。
最初は否定していた取引相手でしたが、しつこく問い正している内に、渋々と重い口を開いたんです。
「実は、あのバイクの前の持ち主は俺の妹なんだ・・・」
彼いわく、彼の妹はポニーテールの似合う、ちょっとやんちゃな女の子。
164センチと小柄な体ながら、バイクを男顔負けに操る、凄腕の持ち主だったそうだ。
しかし、彼女は些細な接触事故がきっかけで、他界してしまったんだそうだ。
事故自体はそれほど大きなものではなく、誰でも経験しそうな、軽微な事故だったらしい。
ただ、彼女の場合は運が悪く、転倒した場所に縁石があり、彼女はそこに後頭部を強打してしまい、即死だったそうだ。
彼は妹の死を嘆き、その原因になったバイクを手元に置いておくのも辛くなりました。
一旦は廃車してしまおうと思っていたが、生前、妹が毎日のように磨いていたバイクを見ると、そんな気にもなれず。
それなら、誰か大事に乗ってくれる人に譲ってしまおう、と考えたらしい。
そして何の縁か、バイクは僕の元にやってきた。
みんなが見たという女の子は、彼の妹の霊だったんだろうか?
バイクが好きで好きで、それなのに突然向こうの世界に行くことになってしまった、自分を嘆いて・・・。
バイクにもっと乗りたいという想いをこの世に残してしまった為、成仏出来なかった彼女の霊だったんだろうか?
一ヶ月が過ぎ、僕は退院をし、また元の生活に戻っている。
しかし、入院前と違うのは、僕の生活の中にバイクが無いという事だけだ。
まだ修理中、というわけではない。
バイクは入院中に修理が終わり、バイク店からも再三、引き取りの電話が入っている。
しかし僕はまだ、バイクを取りに行こうかどうか迷っている。
それは交通事故の相手がふと漏らした、こんな一言が原因だった。
事故を起こした時、何故かブレーキが利かなかったんです。
それより一番不思議だったのは、ぶつかる瞬間、後部座席に乗っていた女の子が、とても嬉しそうに笑ったんですよ。
まるで、事故を起こして喜んでいるかのように・・・。