もう一人の彼女

もう一人の彼女 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

はじめてドッペルゲンガーを見た。

私は実家を遠く離れた土地で就職し、当然一人暮らしです。
初めての一人暮らしで、しかも家族とはめったに会えない距離。
数ヶ月でホームシックになり、家に帰ると誰かがいるような錯覚を覚えるようになってました。

それが段々エスカレートしてきて、足音が聞こえたり、独り言(ため息?)が聞こえたり本当に家族恋しからくる幻聴なら家族の声だったりするものなのに、その音はたぶん若い女のものにしか聞こえない。

こっちの生活に慣れてきた頃には、この家にはもう一人、姿の見えない誰かが住んでいるんだと思うようになりました。
その人は私とは微妙に生活リズムが違うようで、出勤しようと家を出てドアの鍵を閉めると中からトイレのドアを開ける音が聞こえたり帰ってくると微妙に化粧箱や櫛、電気ポッドの位置がずれていたり閉めたと思っていた風呂場の扉や中蓋が開いていることは越してきてからすでに数え切れないくらいありました。

実家に帰った時、その話を少ししたら。

「子供の頃、あんた夢遊病だったからね」

と笑われました。

私にはその記憶も自覚もなかったのですが、両親は

「寝ぼけてやって覚えてないんだろ」

で済まされました。

生身の他人に入り込まれているんじゃなければそれほど怖くないと私もそれで納得しました。
もう一人の彼女との生活は特に問題なく続きました。
寝ていると誰かが帰ってくる夢を見て、朝になって玄関の靴の位置が変わっていることにもなれました。
だけどつい最近、初めて彼女と遭遇しました。

寝不足気味で出勤しようと中から玄関ドアを開けた瞬間、目の前に彼女がいました。
つかれきった顔してだらしなく鞄を抱えてる彼女と目が合いました。
なぜかお互い軽く会釈をしてから、私と入れ違いに彼女は家に入っていき、私は何事もなかったかのようにドアの鍵を閉めて通勤。

電車の中で吐きそうなくらい怖くなりました。
彼女は私と同じ顔でした。

彼女は私だと強烈な確信があり、余計に気持ち悪くなりました。
いつもは嫌な残業をひたすらこなしてへとへとなのにどうしても家に帰るのが怖くて同僚と終電まで飲んでから帰宅。

たぶん他人から見たら相当つかれきっただらしない人間に見えたと思います。
鍵を開けてドアを開けた瞬間、今朝見たのは今の自分なんじゃないか?と感じました。
寝崩れたまんまの布団を見下ろして、微妙にずれる小物類も整理整頓されてるわけでもなし典型的なだらしない人間の部屋。

家賃が特別安いわけでもなく、変なのが棲んでるという噂も聞かない。
何の変哲もない普通の物件。

幽霊が憑いてると考えるより、もう一人の自分が少しずれた時間と空間に住んでいると考える方が私にはなぜか納得できました。

ドッペルゲンガーを見るともうすぐ死ぬ、など聞くので彼女と出会ってしまった私ももうすぐ死ぬのかと考えるとまだ怖いです。

今も彼女はいます。

いなくなったらそれは自分が死ぬ時なんじゃないかな、とも思ってます。
ホームシックもぶり返しました無性に実家に帰りたいです。
仕事も何もかも捨てて帰りたいです。

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