張り紙アパート

私が大学生だった頃の話です。

私が通う大学のある街には「張り紙アパート」と呼ばれる奇妙なアパートがありました。
なんてことない普通のアパートなのですが、一階の部屋の道路に面した大きな窓がとても不気味でした。
アパートは2階建てで上下に5部屋ずつあるのですが、一回だけ全ての窓が内側から隙間なく張り紙がされていたんです。

まるで中を見られるのを遮るかのように・・・

張り紙も新聞紙やチラシのようなものからアイドルやアニメのポスターだったりと、部屋によってまちまちでした。
ある時そのアパートの一階の一部屋が空室になったことを聞きました。
そして私たちの友達の中で借りてみようということになったんです。



私の友達にBさんという男友達がいました。
そのBさんは最近彼女ができ部屋に彼女を呼びたいとのことで、学生寮を出たがっていました。
そこで家賃が安いなら借りてもいいとのことで、Bさんが張り紙アパートの一室を借りることになりました。
借りる前に噂を聞き調べましたが、アパートのことを知っている人はたくさんいますが、事件があったという事実や曰く付きだという話は一切出てきません。

Bさんは不動産会社や大家さんに話を聞いて見ましたが、事件・事故・幽霊が出るなどの話は聞いていないとのことでした。
張り紙についても首をひねるばかりで、住民から何も言われたことがないとのことでした。
大家さんがいうには古いアパートなので防寒対策や結露対策、西日対策じゃないのかとのことです。
実際内見の際にも押入れの中は湿気のせいか、カビのようなシミがあったし、それについては古いアパートなので仕方がないそのぶん家賃を安くするという話が出た程度でした。



家賃が手頃なこともありBさんは契約をしました。
Bさんが引越しをするとのことで、引越しの手伝いとして私とCさんとDさんが駆り出されました。
私は窓をどうするか気になったのですが、カーテンをつけることにしました。
手伝いのお礼にご飯をおごるということになっていたのですが、引越しの手伝いの流れでBさんの部屋で鍋をしながら飲むことになりました。
日中の肉体労働の疲れと酒の力で、日が変わる頃には4人ともうとうとしていたんです。
そしてBさん以外の私を含む3人は面倒だということでこのままBさんの部屋に泊まることになりました。



とりあえずテーブルを片付け私たち4人は畳の上に横になりました。
何時間くらい経った頃でしょうか・・・
私はふいに背中を誰かに触られた気がして目を覚ましました。
酔いと寝ぼけた顔でぼーっとしていると、またさわさわっと何かが背中に擦れたような気がしたんです。
反射的に振り返ると後ろのカーテンが揺れていました。
私は窓側に寝ていたので、風か何かでカーテンが動いてそれが背中に当たったんです。

なんだカーテンか・・・

そう思い安心して私はまた横になりました。
でもそれがおかしいことに気づいたんです。季節は秋なので窓は閉めていて、扇風機の類はつけていません。

なぜカーテンが揺れたんだ?

色々考えているとまた再びカーテンが背中を触りました。
私は君が悪くて声を出して飛び起きてしまったんです。
慌てて電気をつけると、時間は午前1時を過ぎた頃でした。
他の3人もなんだなんだと起き出してきました。
私は興奮しながら今起きたことを他の3人に説明しました。
ですが気のせいじゃないかと言われ信じてもらえません。
そんな話をしていると、4人の前で再びカーテンがふわりと浮きました。

あっ!!

4人が同時に声をあげました。
風もないし誰も触れていないのにカーテンが揺れていたのですから当然の反応です。
しかもふわりとカーテンが浮くだけでなく、窓側から何かに押されるようにカーテンがふくらみ始めたんです。

カーテンが自然にこんな風に動くはずがない。
カーテンの向こうには一体何があるんだ?

私たちがそんな疑問に思い唖然としていると、Bさんが不意につぶやきました。

「開けてみるか?」

まだ酔いが残っていてその影響もあったのかもしれませんが、私たちもカーテンが自然に動くところが取れたら面白そうだと思っていました。
ましてや幽霊なんかが取れたらすごいことです。
私たちはその話で興奮しました。



そして段取りはこうです。
BさんとCさんがカーテンの両脇に待機しふくらみ始めたら一気にカーテンを引き、そこを私がカメラで撮るという感じです。
運良くじゃんけんに勝ったDさんは何もせずに待機とのことでした。

数十分経ったころカーテンがふくらみ始めました。
そしてBさんとCさんは一気にカーテンを引いたんです。

そこにはまるで窓ガラスから生えるかのように、髪の長い女の人が頭から徐々に現れ始めていました。

黒い髪はだらりと垂れ下がっているのに、上半身は綺麗に垂直に生えています。
女の体が胸くらいまで見え始めると、徐々に前を向き始めました目が合ってしまうとやばいと感じた私たちはとっさに目をつぶりました。

そしてゆっくりと目を開けるとそこには女の人の姿はどこにもなかったんんです。
そのまま私たち4人は固まって朝を迎えました。
それ以来私はBさんの住むアパートには近づくことができませんでした。

あの時の女性は一体誰だったのでしょうか?
私たちは怯えながら今もあのアパートの前を通ることはできずにいます。

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