[ナナシ 第28話]永遠の出口
あれから、あの日から随分、また時間が過ぎた今も。 彼の最後の言葉が、耳から離れない。 あいつは、最後の最後にすら、優しい。 僕の、親友。 もういいよ。しあわせになれ。 その言葉を...
あれから、あの日から随分、また時間が過ぎた今も。 彼の最後の言葉が、耳から離れない。 あいつは、最後の最後にすら、優しい。 僕の、親友。 もういいよ。しあわせになれ。 その言葉を...
吐息白く、指先の感覚が無くなるような寒い日のこと。 僕は職場からの帰り道を急いでいた。 残業が長引き、終電はとうになくなっており、車も持たない貧乏な一人暮らしの僕にはタクシーで帰るような余裕も...
霊感の強い友人いわく「霊は生前の記憶を繰り返すだけの残像のようなもの」なのだそうだ。 とある踏み切りに、いつも中年のサラリーマン風の男が立っている。 焦点の定まっていない目と生気を感じない表情...
不思議なことってあるんですねぇ。 GWをずらして少し観光客が減った頃に会社の保養所がある箱根の温泉に行ったんですよ。 昔、別荘として使っていた親会社社長が経営危機でうちの会社に手渡したらしいんです...
ナナシの日記は、そこで終わっていた。 ぼたぼたと落ちる涙が白いノートに染みを作った。 「…この次の日ね、キョウスケ、車に撥ねられたんだ。」 レイジさんが言った。 「駅に向かう途...
5月17日 今日はレイちゃんがスピッツのCD買って来た。 スピッツはハルのすきな歌手だ。 よく歌ってた。 ハルは声ハスキーだからサビとか苦しそうだったけど。 おかげで俺もスピッツすきにな...
到着した白いマンションの5階が、その場所だった。 エレベーターで5階にあがり、503というプレートのついた部屋の鍵をレイジさんがあける。 フローリングの廊下にあがり、つきあたりのドアのまえに立...
レイジさんに促され、僕は霊園から少し歩いたところにある喫茶店に入った。 その間僕らはずっと無言だった。 なにを話していいのかわからなかったし、なにも話すことはない。 否、なにも話してはいけな...
先日友人Aと電話していたとき、友人が『どう思う?』と聞いてきた話です。 ちょっとにわかには信じられないのですが…… でも聞かされたときはさすがに怖かったです。 Aの家の近くを流れる川には...
小学校低学年くらいのときの話 その頃団地に住んでいて、俺の部屋は四畳半だったんだけど、そこに布団を敷いて一人でいつも寝ていた。 その日も普通に布団に入って寝たんだけど、珍しく夜中に目が覚めてし...
親友がもうどこにも存在しないのだということを知ってから、一週間程過ぎた日曜日のこと。 僕はふたたび、彼が助けてくれた、そして彼が眠っているその場所を訪れていた。 あの夜からこの日まで、僕は自分がど...
子供のころ母に連れられて近所の八百屋まで行った。 母が買い物しているあいだ暇なので八百屋の前にある空き地で待ってたんだけど不思議な立て看板がたってた。 そんなものはいつもはないんだよ、その日だ...
その日、前日の夜のことを引きずったまま僕は学校に行った。 やっぱりナナシはいなくて、アキヤマさんは何事も無かったように教室にいた。 話し掛けてみたが、やはりいつもと変わらなくて昨日のことは全部夢か...
今の年代の人に、狩りをした事のある人は少ないでしょう。 昔、私は祖父に連れられて、狸を捕る為に数度、山にトラバサミを仕掛けに行った事があります。 山にも色々な約束事があります。 うろ覚えです...
あれからどのくらいすぎただろうか。 その寒い日、無事に就職したことを報告する為に今は亡き親友の墓参りに行って来た。 その小さな墓前にはあいつの好きだった忽忘草の押し花が置かれていた。 「死ん...