つい先日の話。
仕事で東北の本社に転勤になった。
生まれも育ちも関西で東北の事なんてまるでわからない俺に優しく色々と教えてくれた先輩がいた。
名前を皐月さんといい、長い黒髪が印象的な可愛い人だった。
ある日、遅くまで残業していた俺と皐月さんは途中で仕事を切り上げて夕飯を食べに行くことになった。
散々迷った挙げ句、港に近い居酒屋に入ることに。
暫らく呑みながら雑談をして、俺はずっと気になってた事を尋ねた。
「皐月さんは彼氏とかいないんですか?」
彼女は目を暫らく伏せるとためらいがちに答えた。
「いない…わ」
その答え方が少し気にはなったが憧れの人の言葉に内心踊りたい気分だった。
「でも…私にはあまり近づかない方がいいわ。だからこういうのも最初で最後にしよう。ね?」
ガーンという文字がきっと俺の背後に浮かんでただろう。
俺は納得できずに彼女を問い詰めた。
すると彼女は開き直ったように語りだした。
自分の呪われた生い立ちと人生を。
彼女は秋田の雪深い非常に閉鎖的な村の生まれで、彼女の先祖はその村で代々祭られていた神(獣)を誤って殺してしまったらしい。
その獣が何だったかは今では失伝しているらしいが、その際何かで村の半分が「無くなって」しまったらしい。
その後一族は村を出る事も許されず、軟禁に近い状態で子孫だけは外から連れてきた浮浪者相手に強制的に作らされた。
子孫を残すと浮浪者は殺され、その体の一部を配偶者は食わされる。
体内で呪を増幅する、らしい。
そこまで話し終えた彼女は一息ついた。
そこで俺は一番気になったことを聞いてみた。
「その風習は今でも…?」
彼女は軽く笑うと言った。
「もしそうなら私はここにいないじゃない」
それも確かにそうだ。
彼女は綺麗な笑顔を浮かべたままで続けた。
自分の5代前の先祖が村の地主の娘を強姦して子供を作った事を。
それまで代々、内に溜め込み続けた「呪」は一度に溢れだした。
村には疫病が蔓延し、人々の大半は死に絶えた。
僅かな生き残りは村の外の世界へと逃げ出した。