これは父が、生死の境を三日間さまよった時の話です。
私が2~3歳の頃。
もちろん私には記憶がなく、父および母からきいた話。
父もまだ若かったので、頻繁に海に潜りに行き、貝やらなにやらを採りに出かけていた。
うちは結構な貧乏で、ウエットスーツのような良いものはなく、父は長袖の肌着にパッチという、それは素晴らしい格好で潜っていた。
(海中にはいろんな虫や魚がおり、それらに刺されたり、身を食われないようにするためのものだったとか…)
装備するのは水中メガネのみ。
それで5~10m潜る。
ある日、父は友人と共に出かけ、帰りはその友人の助けを借り、命辛々病院に運ばれた。
(急展開ですみません)
母が病院に駆けつけた時、既に父は意識不明の重体だった。
医者に容態を聞くと、ここ2~3日がヤマだという。
39℃から40℃の熱。
全身に広がるミミズ腫れと裂傷。
そして、なにかに巻き付かれたようなうっ血した痕。
医者や父の友人は、
「電気クラゲにやられたかもしれない」
と言っていた。
(それにしてもヒドイと、二人とも首を捻る)
そしてこの時、医者はあることを見落としていた。
それとも敢えて言わなかったのか…。
それは後に母によってあきらかになる。
母は父につききりだった。
父の熱は下がらぬまま、二日が過ぎ、三日目の夜を迎えた。
ベッドの上の父が突然苦悶の表情を浮かべたかと思うと、体を掻き毟るように、体にまとわりつくものを剥がすように、手足をジタバタさせながら叫んだ。
「コラーーー!!帰れーー!!メにあわすぞーーー!!!」
母は驚き、父に声をかけた。
「お父さん!どげしたかね!」
母が体をさすると、父はスゥッと目を開け、
「○○(母の名)か…。俺は死なんけん」
と言い放つと、またスゥッと目を瞑り、スヤスヤと眠りだした。
その後、父は驚異の回復をみせる。
(母の証言)
父が熱にうなされている間、幾度か体をふいた。
その時は裂傷の包帯でよく分からなかったが、体中に妙な痣がたくさんあった。
包帯が取れたあとを見てみると、足や腕に、なにやら握りしめられたような痕が多数。
背中にも手形のようなものや、引っかいたあとのようなものが多数あった。
素人の母が見てもそれらは、手でつけられた痕のように思われた。
(父の証言)
父「あれは確かに電気クラゲだった!」(言いきる)
私「嘘ー、電気クラゲでそこまで酷くなるのぉー?」
父「(ポツリと)…クラゲの足にまじって、ようけ人間の手がはえちょったぞ。
クラゲの頭にもう一つ、坊サンみたいな首も乗っちょったぞ(ニヤリ」
…あの、それは妖怪ですか…
はたまた幽霊系ですか…
悩む私の横で、
「電気クラゲ!!」
と笑う父がいました。
ソレがどんな姿か想像して海に潜ると、ちょっと怖いかも…と思う私の幼少期でした。