お盆に実家に帰ると幼い時のあの体験を必ず思い出してしまう。
私は幼い時に、夜中に一人で起きてオシッコをする癖があった。
ただし、トイレじゃなくて家の中にある井戸の周りにオシッコをしてしまい母によく叱られた。
トイレと井戸は反対方向に位置していて、私が寝ていた場所からは井戸の方が近かった。
そのため、私は近い方の井戸でオシッコをする癖がついたのかもしれない。
ある日の夜中、また私はオシッコがしたくなり井戸に行った。
オシッコをしようとパンツを下ろしたところで、頭の上の方で風に擦れる微かな音が聞こえた。
なんだろ?とゆっくり顔を上げると、真っ白な着物が吊り下がっている。
なんだ洗濯物か、と思いつつオシッコをした。
オシッコが終わってパンツを上げたところでまた風に擦れる微かな音が聞こえた。
また気になって顔を上げると真っ白な着物の下に2本の白い足が突き出ていた。
そして暗闇の中で真っ白な着物の袖から白い手が出ているのを見つけた。
さらに目線は上の方へと上がっていき、真っ白な着物の首から顔のあたりに向けた。
しかし、暗くて顔が見えない。
顔は見えないが目線を外すことは出来なかった。
向こうも私を見ている気がしたから・・・。
その時、微かに風が吹いた。
暗くて見えない顔のまわりで髪の毛が風に揺れていた。
そしてその奥に赤く光る二つの眼と目が合った。
翌朝、私は母の叱る声で目が覚めた。
そのまま井戸の横で眠ってしまったらしい。
井戸の上の方を見ても白い着物は無かった。
なんだ夢かとちょっと安心した。
その日、私が小学校から帰って来ると母と祖母が井戸で蛇を見つけて大騒ぎをしていた。
その井戸は使っていなかったのだが、私が井戸に落ちては危ないと心配した母が古くなったフタを交換しようとして持ち上げたところ井戸の中に蛇を見つけたらしい。
私は蛇など見たくも無いので、さっさと外へ遊びに行った。
結局、父が帰ってきて蛇を井戸から引き上げ近くの草むらに逃がしたらしい。
そして、井戸のフタも頑丈な物に交換し開けられないようにした。
私は夕食の時間に間に合うよう帰宅した。
母が夕食の準備をしながら「今日は本当にびっくりした。」を連発していた。
私は蛇の話だとすぐにわかったが聞きたくもないのでテレビを見ていた。
しかし、母の次の言葉に私は固まってしまった。
「白い蛇なんてはじめて見たみたし、目が真っ赤で気持ち悪かったねー。お父さん。」
その日から私はトイレに行くようになった。