A子さんには高校時代好きな男の子がいました。
お互いの気持ちも知れていて、淡い予感を秘めていた卒業前。
彼は彼女を残して交通事故で死んでしまいました。
その5年後。
A子さんは同級生のB子さんを連れて母校を訪れました。
懐かしそうに、しかし少し困ったような顔をしながら校内を見て回るA子さんと、それを不安気に気遣うB子さん。
その時、廊下の奥を誰かが横切りました。
A子さんの視線を捉えた先には、見覚えのある少年がありました。
「…君!」
青ざめるB子さんを置いて、A子さんはすでに走りだしていました。
追いかけてはいけない!
B子さんの制止を振り切って、A子さんは彼の姿を探しました。
階段を曲がったと思ったら、そこにはもう姿がなく、やっと目線の端で捉えられるような所に一瞬だけ現れるのです。
二人はいつのまにか、以前自分たちが使っていた階にいました。
その視線の先には、ひとつの教室がありました。
ドアからひらひらと手招きする手を見て、B子さんは鳥肌がたちました。
あの教室の中に入れば、一体どこに繋がっているというのか。
しかし、A子さんにとってそんなことはもう頭の中にありませんでした。
例え、この先に何があっても、あの時掴めなかった手を今とれるなら。
A子さんがあと一歩という瞬間、B子さんが叫びました。
「お願い、連れて行かないで。A子結婚するの」
教室にA子さんが飛び込んだその時、教室には陰ひとつなく、一通の古びた手紙が机の上に置かれていただけでした。
彼の出しそびれたラブレターが彼女の許に届けられたのは、5年の歳月を経た後でした。