昔、大阪のある山に結構な時間かけて何日か通った事があった。
その時は何でかわからなかったが、今はあのときの事が原因だと思ってる。
そこの山に姫岩って岩があるんだけど、そこに行く途中地獄谷って言う場所があって、そこから姫岩に行くんだけどその途中にかなり寒気がした。
そこに行ったのは最初は好奇心で誰も寄り付いてなかったからためしに言ってみたんだ。
姫岩のまん前に来て始めてわかったことがあった。
何かはわからないがとても良い臭いがするんだよ。
その時は何かはわからなったが、後から考えたらぞっとする。
その時は不思議だなぁ、何かの花かな?って思ってその場を後にしようとした。
でも、帰る途中に橋があるんだが、その橋の下に妙に惹かれたんだよ。
不思議な感じで、自然と覗きたくなってきたんだ。
当然下は川になってて、比較的流れも激しい。
そんな川を覗こうとしたときに、兄から携帯がなってそれでハッとした自分はそのまま帰宅しようとしたんだよ。
でも、帰る途中に肩が凄く重くなって、かなり気持ち悪かったが、人がちらほらと見え始めると収まった。
行き帰りは自転車なんだが、近くの川に危うく転落しかけたり、木の枝が自転車に絡まってこけたりしたんだ。
そんなこんなあって家に帰ったんだが、なんとなくまた行ってみたくなったんだ。
そして、何度か同じような目にあってようやくおかしいなぁと思い始めたんだけど思っただけで、通ってはいたんだ。
で、ある日母の趣味のお香を買いに一緒に出かけたんだが、そこであることに気づいた。
そう、あの時かいだ臭いはお香だったんだ。
そう思ったら何か怖くなってきて、ネットで姫岩って調べたら出てきたんだよ。
そこでは信さんって言う人の創作話って書いてたけど、そうとは思えなかったね。
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箕面姫岩伝説 (創作)
その若い山伏は片目であった。
彼はある庄官の三男で俗名を兵衛という。
「姫」と呼ばれる妻との間に子供もいる。
ある年、隣の国と戦になったため兵衛は郎党を率いて戦場に馳せた。
白兵戦の最中、一軍を率いて側面から襲ってくる敵の将に目をやると、見目麗しい女武者であった。
長い黒髪を純白の鉢巻で結び、緋縅の鎧を着け栗毛の馬に打ち乗って、弓矢をキリキリと引き絞っていた。
その矢の先は明らかに自分に向けられ、弓から放たれた矢は兵衛の左目を貫いた。
気が付くと、我が家の広間にいた。看病をする妻の傍らには子供の顔もあった。
意識が戻って武士としての我が身を思い出した時、彼は激しい自己嫌悪に陥っていった。
女の色香に迷った結果の不覚は、己の中にある色欲によるものに違いない・・・
ようやく傷が癒えた日、兵衛は妻に「山へ入る」とだけ告げ、何も持たずに館を出た。
山伏の中に身を投じ、淫欲の血を最後の一滴まで振り払おうと考えたのであった。
それから、羽黒山に入り、戸隠山へ行き、更に西へ歩いて箕面山に来たとき彼は「忍快」と名乗っていた。
箕面寺は修験道山伏発祥の聖地。
しかも、女体の弁才天を祀る寺。
女淫の邪心を消し去るには格好の場であるような気がした。
彼は杖を留めたその日から、修行の古場の岸壁で座禅を組み、般若心経を唱え続けた。
眼前を流れる激流の音に読経の声がかき消されても、朝から夜まで時には夜を徹し一心不乱に経を唱えた。
ある朝、ふと対岸に目をやると、巨石の上に一人の女がうずまくっていた。
それは紛れもなく故郷に捨て置いた我が妻に相違なかった。
その時、妻も我が夫の姿をはっきりと見た。
彼女はあの日から、親たちが止めるのを振り切り、侍女三人を連れて夫を追った。
そして箕面に来た時、付き従った侍女も去り、彼女は一人きりになっていた。
だが、やっと追いつき愛する夫を目にとらえることが出来たのである。
彼女は、よろよろ岩の上に立ち上がり
「兵衛さま、兵衛さまではありませんか・・・」
と叫んだ。
彼も、ここまで追ってはた妻への愛おしさが、胸にこみあげて、思わず「姫」と叫びかけた。
しかし、彼はそれをぐっと耐えた。
例えそれが妻とはいえ、ここで女人に心を移したなら、今までの必死の修行も一瞬にして空しいものになってしまう。
女人への一切の思いを断ち切ろうとした日々が霧のように消え飛んでしまう。
彼は敢えて目をつぶり、顔を伏せた。
その時 「あぁっっ・・・」
我を忘れて走り寄ろうとした妻は、高い巨岩の上から足を滑らせて谷底に転落した。
それでも、忍快坊兵衛は微動だにしなかった。
彼は滾る思いを必死で耐え、般若心経を唱え続けていた。
彼女の亡骸は、寺の僧たちによって岩陰に葬られた。
忍快坊兵衛は、もはや、その場を動こうとはしなかった。
夜になっても、朝になっても、風が吹こうと、雨が降りかかろうとも・・・
そして、対岸の岩の上に、死んだ妻の幻が立つのを見ていた。
「貴方は、つれないお方。人を悲しませて何の悟りですか。
私は怨霊となって貴方を道連れにしないではおきません」
彼は、その声もまた我が心の迷妄に過ぎぬと、読経を続けるのであった。
それから七日目の朝、忍快坊兵衛は事切れ、その身体は大きく揺らいで、谷底に崩れ落ちた。
以来対岸の大岩に、夜になると女人の亡霊が立つと云う噂が広まった。
しかも、その亡霊を見た者は足を滑らせて谷底に落ちて死ぬと云われた。
一山の座主は、怨霊調伏のための修法を行ずることにした。
その夜もまた怨霊は現れていた。氷雨が激しく地を叩く寒い夜であった。
座主は修行の古場に座を設け香炉を捧げて、東方に降三世明王、南方に軍荼利明王、西方に大威徳明王、北方には金剛夜叉明王を降だして祈った。
やがて、黒雲が空を覆い大雷鳴が轟き電光が貫いた。
そして、大岩は真っ二つに裂けていた。
次の瞬間、黒雲は払われ月が煌煌と照らし、虚空から妙なる枇杷の音が聞こえ、鈴を振るわすような美しい声が聞こえてきた。
「我は弁才天なり。今、姫は生まれ変わって我が浄土にある」
その声は次第に遠ざかり、やがて、渓流の音のみが高かった。
こうして、二つに割れた岩を「姫岩」と呼ぶようになった。
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