小児白血病だったK君の話です。
K君は三度目の再発でした。急速に増えて行く白血病細胞の数。
ドクターはK君のご両親に、
「化学療法のみの延命治療なら持って後3ヶ月、残る治療法は骨髄移植ですが成功率は10%程です」
と言いました。
何度も辛い治療をして来たK君、このままゆっくり過ごすのが良いのか、僅かな望みに賭けた方が良いのか…。
ご両親は迷ったそうです。
そんな両親から何か感じ取ったのか、K君は
「どんなに痛くても死にたくない、退院したらキャンプに行きたいんだ。頑張るよ」
と言ったそうです。
K君の『生きたい』という生きる力を信じ、ご両親は移植を決意しました。
※
今まで使用した抗がん剤は効果が出難くなっているため、かなり強い薬を使います。
K君の苦しみはこんな文章ではとても伝えられません。
薬を飲む、食事を摂るのも大変なことで、吐き気、痛み…身の置き場のない苦しみだったようです。
見ているご両親も大変辛かったと思います。
でもK君は、
「退院したらキャンプに行く約束だよ、○○(K君の弟の名前)と魚釣るんだ」
と、どんなに辛くても、痛くても、元気になることを夢見て、ご両親に退院してからの話をしていたそうです。
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クリーンルームの中、ずっと願い続け、頑張り続けたK君でしたが、移植前の処置に耐えられず、ご両親に看取られK君は眠りに就きました。
「やっと痛みが無くなって休めるね…ごめんね、最後まで頑張らせて…」
と、お母さんはK君を抱き締めて泣きました。
最後まで弱音を吐かずに頑張ったK君の体重は、入院前の3分の2程度にまでなってしまっていたそうです。
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亡くなる少し前、K君はお母さんに、
「夢を見たよ。みんなでキャンプしてるの。
みんながご飯を食べている所に僕も行こうとしたら目が覚めちゃった」
と話しました。
…健康な子なら何でもない、でもK君にとっては祈るような願いだったキャンプの風景が、夢にまで出て来たようでした。
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それから一年ほど経った頃、家族でK君の行きたがっていたキャンプに行ったそうです。
K君の治療中、時間を取って遊んであげられなかったK君の弟君のため。
そして、K君の供養の意味も込めて。
キャンプ場でバーベキューを用意し、さあ食べようという時に、弟君が
「お兄ちゃん?」
と一言。
どうしたのか聞いてみると、
「お兄ちゃんがバーベキューをしているこの場所に走って来て…そこで消えた」
と言うのです。
お母さんはすぐ入院中に聞いた夢の話を思い出しました。
あの時、K君が話していた夢は、きっとこの事だったんだ、と。
バーベキューはもちろん、K君の分のお皿やジュースも用意したそうです。
弟君の話では、K君はニコニコ笑って走って来たとのことでした。
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きっと時間を越えてK君はあの夢を見たのだと、お母さんは信じているそうです。
一瞬でも、ほんの少しでもK君の願いが叶っていたのなら…救われた気がする、と。