うちの親戚に、「山を持っている」という規模の金持ちがいるんです。
そこには娘さんが二人いるのですが、母親がこのうちの妹の方を、えらくいじめるんです。
いつ見ても、ほっぺにビンタの跡があったぐらいに。
その妹は養女だそうで、
「父親がよそで作ってきた子」
「全くの赤の他人」
だとか、
噂は色々あったんだけど、詳しいことは俺も知らなかった。
いじめもなかなか陰湿で、食事も一緒に食べないほど。
母親とお姉さんが食べ終わるまで、じっと待たされているんだ。
親戚が集まった時も、その妹はいつも怒鳴られていて、あまりにも可哀想なので普段大人しい俺が、
「いいかげんにしろよ!」
って怒鳴っちゃったぐらい。
そしたら親戚の何人かにギロッて睨まれてね。
相手が金持ちなもんだから、おこぼれ狙ってたんだろうな。
後でおふくろに、
「まずかったかな?」
て言ってたら、
「バカと貧乏は治らない病気だから仕方がないけど、下品だけはやせ我慢すりゃなんとかなる」
って言われた。
こんなこと言ってられるのは、うちが祖父母の代で本家に不義理を働いて、ちょっと遠くに逃げていた状態だからなんだろうけどね。
財産が譲られる順番は、犬より後なわけ。
そんなわけで、その妹は周囲に味方もいなくて、6才上のお姉さんがかばってやりゃいいのに、こいつがまたイヤな女で、母親に輪をかけて妹をいじめるんだ。
かなり美人なんだけど、台無しもいいとこ。
せめて父親が生きててくれたらよかったのに、妹が2才の時に車の事故で亡くなっていてね。
なんでも、姉の方を乗せている時にハンドル操作を間違って、海にドボンしたらしい。
学校の先生とか役所の人も、なにせ相手が金持ちだから、かかわり合いにならないか、媚を売るかの両極端で、ほんと頼りにならないんだ。
その妹が中学生の時に、おふくろが俺に、
「今から貧乏がもっと凄い貧乏になるけど文句言うな」
って言い出してね。
悩んだ末に引き取るつもりになって、その親戚の家に行ったんだ。
後から考えたら、うちは母子家庭で経済的に余裕がないし、年齢の近い異性がいる(俺)から、この話が上手くいくわけないんだけどさ。
その時はサンダーバードの隊員みたいな気分で、お屋敷に乗り込んだんだ。
いや、俺は後を付いて行っただけなんだけどね。
「○○ちゃん(妹)、いらないんでしょ。ちょーだい」
確か、こんな感じで切り出していたと思う。
言い方を考えた方がいいんじゃないかと思ってたんだけど、相手の反応が予想外でね。
血相変えて、
「あの子は渡せない!」
って言うんだ。
その後は、おふくろと二人で別の部屋で話し込んでいたので詳しいことは分からないんだけど、
あのオバハンの泣きそうな顔は、意外過ぎた。
おふくろもそれ以来、
「この話は終わり!」
って言って、何も言わなくなってしまった。
普段はうるさいぐらいお喋りなんだけど。
それから5年ぐらいだったかな。
妹が18の時に、母親と姉が事故で亡くなってね。
車の事故で海にドボン。
父親の時と同じ。
場所は違うけどね。
母親は実はガンだったそうで、あと1年持つかどうかの状態だったそうだ。
事故の様子がね、これがどう見ても・・・
「病気を苦にした母親が、子供を道連れに自殺した」
ように見えるんだ。
いや、もちろん警察は事故として処理しちゃったよ。
地元の有力者に遠慮したのかなぁ?
自殺は恥っていうところがあるから。
そういったことで、その財産はいじめられ続けていた妹に渡ることになったんだ。
親戚中が大騒ぎだったよ。
その時に、ちょっとヘンな話があってね。
遺産相続の際に手続きしないといけないから、役所に戸籍とかの書類を貰いに行ったんだ。
そしたらね、戸籍にお姉さんが『養子』って書いていたんだ。
いじめられてた妹が本当の子供で、お姉さんの方が養女だったの。
「逆じゃないですか?」って役所で尋ねたんだけど、これで間違いないそうだ。
養子縁組みの記録も、ちゃんと残っている。
「○○さん(俺)・・・、
これどういうことなんでしょう?」
って妹に聞かれてさ。
実は薄々真相に気づいていたんだけど、何も言えなくてね。
「お母さんはキミを愛していたんだよ」
とでも言うべきだったのかなぁ?
みんなには真相が分かりましたか?
解説
母親は、本当は妹を愛していた。
自分はもうすぐ死ぬが、周りには遺産目当ての人しかいない。
このまま遺産を相続しても、誰かに横取りされて終わりである。
なのでわざと妹に辛く当たって、遺産目当てではない、本当に可哀相だと言う理由で、手を差し伸べてくれる人を探していた。
そのため、その母親は俺とおふくろが来た時に泣きそうになり、病気で死ぬ前に自殺した。
俺とおふくろを一旦追い返したのは、もし自分が死ぬ前に養子として出してしまうと、遺産が正しく相続されない可能性があったからと考えられる。