私は子供の頃から、綿布団で寝ていました。
しかし、家が火事になった時、私の布団も燃えてしまったのです。
新しく買った羽毛布団は、寝心地が良くありません。
私がズッシリとした重みのある、綿布団に慣れていたからです。
ある日、私は会社の同僚に、笑い話としてそのことを話しました。
「私は綿布団の重さに慣れているので、羽毛布団を使うようになってからも、布団の上に座布団を乗せて寝ているよ」
と。
するとその同僚が、
「家に、もう使う事がない綿布団があるので、差し上げますよ」
と言います。
私は「同僚の顔も立てたいし」と思い、喜びながら綿布団を貰いました。
その夜、私はさっそく貰った綿布団を敷いて、寝る事にしたのです。
最初は「久しぶりの綿布団は、気持ちがいいな」と思っていました。
でも、私がウトウトしている時、妙に布団が重く感じるのです。
私が、「妙な気配がするな・・・」と思った矢先でした。
突然に私の体が、金縛りで動かなくなってしまったのです。
私は驚き、恐怖のあまり目を開けようとしました。
すると、私の耳元で「目を開けるな」と、誰かが囁いたのです。
「目を開けると危険だと、誰かが教えてくれているのか?」
私は「目を開けるな」という声を、そう判断しました。
だから、私は瞼を固く閉じ、必死に息苦しさと恐怖に堪えていたのです。
しかし、しだいに息が出来なくなってきました。
「もう堪えられない!」
私はそう思い、無我夢中で体中に力を込め、目を開けたのです。
すると私の眼前に、白髪で無表情な老婆の顔がありました。
驚いた私は、すぐに老婆を払いのけようとしたのです。
でも、体がまだ、完全に動きません。
それでも私は、「何とか、追い払わなくては・・・」と思い、必死に「出て行け」と叫び続けました。
すると老婆は、静かに喋り出したのです。
「もう少しだったのに」
「寂しかったんだよ」
「今でも・・・」
そして老婆は、そのまま消えていきました。