一人暮しを始めて半年ほど経った秋の早朝、誰かが玄関の扉を勢い良く叩いている。
布団から手を伸ばして携帯を見ると午前7時。
客が来る予定はないし、セールスが来るような時間でもない。
大体うちは一人暮し用のマンションなんでセールスなんてほとんどこない。
面倒で布団に包まってやり過ごそうとしていると
ドアノブをゆっくりと捻る音が音が聞こえた。
「しまった!昨日帰ってから鍵締めてねえ!」
靴を脱ぐ音は聞こえないので「ああ、カタギの人じゃないな」と絶対に泥棒か強盗だと思った。
怖くて布団にくるまっているとすりガラスの引き戸一枚隔てたキッチンでナベやフライパンをいじる、甲高い音が聞こえる。
寝ているふりをしていれば取るものとって帰ってくれるだろうか。
訪問者はいつまでもキッチンをいじりまわしている。
蛇口から水が流れる音も聞こえる。
一体なにがしたいのかまったく分からなくてものすごくこわかった。
音がやんで、布団から覗き見るとすりガラス越しに男がじっと立ってるのが分かった。
180cmくらいの細身の男が戸のすぐ前に立っているのがわかった。
目が合った気がした瞬間男が戸を思いっきり叩きはじめた。
すりガラスがすごい音を発ててゆれた。
もう目的が全くわからなくて涙ぐんでただ布団にくるまってました。
2,3分くらい男は戸を叩いていました。
ふと辺りが静まり返ると足音がして、ドアを開ける音が聞こえました。
今思うとドアを開けて帰ったふりをして待ち構えていた、とかそういう思考がどうしてできなかったのか分かりませんが男が帰ってくれたと思いこんだ自分はなんの警戒心もなく寝室を飛び出し、玄関の扉まで走り寄って鍵を閉めました。
モチロン男は本当に帰っていたから今こうしてカキコできてるんですがw。
キッチンの流しの蛇口から水が静かに流れていて、コンロからなぜか床に置かれたナベやヤカンにものすごい悪意を感じて身震いしました。
ナベやヤカンは新しいものに変えて、以来どんな時でもキチンと鍵をしめています。