先輩の裏切り

先輩の裏切り 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

私は中学生の頃、バスケットボール部に所属していて、一つ上にマドンナ的な憧れの先輩がいました。
私はその先輩ととても仲がよくて、プライベートでも頻繁に遊んでいました。

ある休日、突然その先輩から電話があり「家に遊びに行っていい?」と尋ねられました。
もちろん私は喜んで自宅の場所を教え、しばらく経つと「今着いたから外出てきてくれる?」と電話で呼び出されました。
外へ出ると1台の車が止まっていて、見知らぬ男性と共に先輩が乗っていました。
そして「このまま遊び行こう!」と言われドライブがはじまりました。

一体どこに行くのかと思いきや、車はどんどん田舎の方へ進みます。
しかも先輩は途中で「用事があるからまたね!」といって帰ってしまいました。
「え~帰るの?」と思いつつも、私はその先輩を信頼しきっていたため、その後も何の戸惑いもなくドライブの時間を楽しんでいました。

しばらくすると車は知らない家の前に止まりました。
そして
「お前のこと気に入ったし、少しお茶しようか」
と言い出した男性は、強制的に私を家の中へ連れ込みました。
家の中には、いかにもチンピラ風な人達が数名いました。
見た目は怖かったのですが、その方たちは私にとても親切にしてくれました。
ですが、夜になっても帰らしてはくれませんでした。
私は「そろそろ帰りたい」と何度も言いました。
すると男性の一人がキレだし、親からかかってくる着信も出れる状況じゃなくなりました。

状況から判断するに、どうやら私は先輩に売られたようです。
仕方なく私はその日、どこかもわからないチンピラの家で一晩を過ごしました。

泣きながらもいつの間にか寝ていて、男たちの話し声で目が覚めました。

「朝鮮に高く売れる」
「いや、でもまだかわいそうだよ。」
「うーん…」

私の今後を話しているのでしょうか。私はそのまま寝たふりをしていました。
頭の中では、もう帰れないのかもしれないな…と覚悟を決め始めていました。

朝になると、昨日はいなかった男性が一人いました。
トイレに行こうとすると、その男性もついてきました。
「本当はこんなことしたくない。けど、君が逃げださないように見ていなくちゃいけない」
そう言われました。
「別に逃げないので大丈夫ですよ」
と、私は返事しました。

「つまらないチンピラに捕まっちゃったな…お母さんごめんなさい」
私はなんとなく、心の中で母親に謝っていました。

拉致されてから1週間がたちました。

まだ日もあけてない夜中の三時頃、男の人に無理やり起こされ、凄い勢いで車に強制的に乗せられました。
ついに朝鮮に送られるのか…なんて考えていました。
もうこの数日間は現実逃避するために無心になっていました。
家族のことや思い出などを振り返ると、あまりにも辛すぎたからです。
もう死ぬ覚悟も出来ていましたし、涙も出なくなっていました。

ボーッと車から外を眺めていると、どんどん見覚えのある景色に変わっていきました。
そして車は、私の家の前に止まりました。

「元気でな。後は俺が何とかしとくから」
連れ出してくれたチンピラは私にそう言い残し、立ち去りました。

その男性は私に同情してくれたのでしょうか。
今だに分かりませんが、無事帰ることができました。

家に帰るなり、早速母に怒られました。
拉致されてから心配をかけないように、家には「友達のところにいる」と連絡していましたが、1回そう伝えたきり連絡が途絶えていたので心配だったようです。
母はこの現実を当然知りません。誰かに話したのもこれが初めてです。
もう10年以上前の話です。

その先輩は私が戻った時にはもういなくなっていて、その後もどうなっているのか不明です。
今となってはとても恐ろしい出来事ですし、何事もなくて良かったと思っています。
今は平凡ですが、幸せに暮らしています。

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