私には生まれた時から父親がいなくて、ずっと母親と二人暮しでした。
(現在は結婚して家を出ていますが)
私がまだ母と暮らしていた、17歳の頃の事です。
夜中の3時ぐらいに「ピーー」と、玄関のチャイムが鳴りました。
ちょうどその日は母と夜中までおしゃべりをしていて、二人とも起きていました。
「こんな遅くに誰だろね」
なんて話しつつ、私が「はい」とインターフォンを取りました。
そうすると女性の声で、
「あの・・あの・・突然すみません・・。
今晩、あの・・泊めて頂けませんか?」
と。
声の感じでは40代ぐらい。
その妙におどおどしていた感じが気になって、
「え?泊めてくださいって、母の知り合いの方ですか?」
と聞き返しました。
すると相手は、
「いえ・・全然違うんです・・。
あの・・私近所のマンションに住んでまして、
あの・・私会社をクビになって・・
あの・・もう住む所が無くて・・
だから泊めて頂きたいと・・」
話がよく理解できなかった私は、
「母の知り合いではないんですね?
でも泊めるのは・・・」
と、おろおろしてしまいました。
そこで見かねた母が、私が代わるからと言って、インターフォンで話し始めました。
私は一体何なんだろ?と思って、玄関の窓越しに、相手を見に行きました。
私が玄関の窓越しに見たその女性は、明らかに変な人でした。
まず、顔はどう見ても50代なのに、金髪で長い髪。
白い帽子を被っていて、明るい緑のブラウスに、赤地に白の水玉のふわっとしたスカート。
右手にはたくさんの物が入った紙袋を持っていました。
その様子を見て、
「これは変な人だ!!」
と察知した私は、まだインターフォンで話している母に、
「ちょっとママ!玄関に来てる人、絶対変!
怖いからもうやめよう!
相手にしないで『駄目です』って言って断ろう!」
と捲くし立てました。
そしたら母は「ははははは」と笑って、
「なんかこの雨の中、傘も無く歩いて来たんだって。
怖いなら傘だけでも貸して帰ってもらおう」
と言うじゃありませんか。
その日は確かに、雨がざんざん降りでした。
私はもう、その人の外見を見てるので泣きたくなって、
こういう事にだけは度胸がある母を恨みました。
私は怖くなったので、玄関から離れた奥のリビングで、玄関の様子を伺っていました。
母が玄関を開けて話している声が聞こえてきて、しばらくすると、
「家には入れられません!帰ってください!」
と母の怒鳴り声が聞こえました。
私は普段、母の怒鳴り声なんか聞いたこともなかったので、それだけでかなりビビッてしまい、その時点で涙目になっていました。
玄関ではガチャガチャガチャ!!と、チェーンの付いた扉を無理やり開けようとする女性と、閉めようとする母が出す音が大きく響き渡り、17歳の私を泣かせるだけの迫力がありました。
でも、その押し問答の最中も、聞こえてくるのは母の声だけ。
相手の声はしません。
やっとバタン!と玄関が閉まる音がして、母がふぅふぅ言いながら部屋に帰ってきました。
「あの人、やっぱり○○(私)の言う通りだね。
頭おかしいみたい。
怖かったでしょう、ごめんね」
と母が言うので、
「なんかされたの?大丈夫?」
と聞き返しました。
すると母はまた笑って、
「いやいや、全然大丈夫。
今日はもう寝なさい」
と。
しかし、この話をしている最中にまた玄関のチャイムが、ピーーピーーピーーと物凄い勢いで鳴り始め、今度は玄関のドアがドンドンドン!と叩かれました。
私のビビり具合はMAXに達して、
「警察に電話しようよ!」
と泣き始めました。
母は、
「あとしばらく続くようなら、警察を呼ぼう。
あなたはもう寝なさいって。
大丈夫だから」
と言い、寝る準備を始めました。
私は怖くてなかなか寝付けず、しばらく玄関の音に耳を澄ませていました。
玄関のドアを叩く音は30分ぐらいで止みましたが、それ以来、
夜中のお客さんは怖くて怖くて仕方ありませんでした。
その夜の出来事から5年後、私は一人暮らしを始める事になりました。
明日から新しい部屋で暮らす事になった晩に、母と話をしていて、
「そういえば、あんな事があったね~。
私、怖くて怖くて、めっちゃ泣いた記憶がある(笑)」
と話したら、母が、
「う~ん・・・、あれだけで怖がってるようじゃ大丈夫かしらね、一人暮らし」
と言うので、
「あれだけで?」
と聞いたら、母が言うには・・・
「私ね、あの時あなたが物凄い怖がってたから言わなかったけど・・・
まずあの人ね、雨が降ってる中を歩いて来たって言ったのに、全然雨に濡れてなかったのよ。
で、左手にバットを持ってたの。
しかも、あの人・・・
男の人だったよ」
私が腰を抜かしたのは、言うまでもありません。
警察呼んでよママ・・・
「なんで警察呼ばないの~!!」
と言ったら、
「なんだか逆恨みされそうじゃない、家はもう知られてるし」
と。
その次の日から一人暮らしをする事になった私ですが、
怖くてしばらくは実家に帰っていました。
あなたも夜中の来客には、十分お気をつけください。