小さくなっていく人影

小さくなっていく人影 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

事の始まりは先々月くらいになります。
母方の実家は結構な田舎で、訳あって私はそこで一人暮らしをしていたのですが、夜に寝ていると縁側の方の襖がふっと明るくなったのです。

それに気付いて襖の方に目をやると、そこには物凄く大きな“人の影”がありました。
いや、人の影と言っても、大き過ぎて腰だけしか映っていなかったのですが、手の形がはっきりと見えたので私はそれが人の影だと分かったのです。
私はビックリするだけで何も出来なかったのですが、その影は私が見ている事に気付いたのか、次の瞬間には明かりごと消えてしまいました。
かなり怖かったのですが、本当に一瞬の出来事だったので見間違いか何かだと思い、その日は寝てしまいました。

しかし、それからほぼ毎日、夜中に全く同じ事が起こるようになりました。
最初に影が見えるようになってから5日目くらいに、さすがに私は「これは夢ではないぞ!」と思い始めました。

誰かのイタズラか?

目の錯覚か?

何かは分からないものの、連日連夜、外が明るくなり襖に人の影が映るなんて事は気味の良いものではありません。
ですが、誰に相談すれば良いのか分からなかった私は、誰にもそれを話す事のないまま、そんな状態を一週間ほど過ごしました。

毎夜その影を見ていた私は、ある事に気付きました。
明かりと影は、私が襖を見るまでは消えてくれないのです。
そして、もうひとつ。
影が日に日に小さくなっていくのです。
最初は腰だけしか映っていなかった影は、2週間が経った頃にはお腹から膝まで見えるようになっていました。

この頃には、
「毎日のように起きるこれはイタズラなんかではなく霊的な何かなんだろう」
と思い始め、影がだんだんと小さくなっていく事に気付いた時は、
「放っておいたらそのうち消えてしまうだろう」
と考えたのです。

思った通り、影はひと月もすればほとんど全体が分かる程に小さくなっていました。
夜、気付かないまま寝てしまうの事もしばしばありました。
次第に恐怖心も薄らいでいきました。

それからつい先日までは、影が小さくなっていくだけで何も起こることがなく日が過ぎていきました。
影が全身を映すようになり、髪が腰まで伸びたその風貌に、最初の頃はこの影が物凄く大きかったのだと思うと少し恐怖したのを覚えています。

そして2日前に友人の家に呼ばれた時、その影の話を初めて人に話しました。
2ヵ月前からほとんど毎日影が現れる事、その影が日に日に小さくなっていく事、今ではもう普通の人間くらいの大きさになっている事。
私は影の事について全てを話しました。
すると、友人は少ししてから急に青ざめて、携帯を取り出しました。

「あんた、頭悪いなぁ・・・」

そう言って友人は部屋を暗くして携帯のライトを点けると、私に光を浴びせました。

「こっちに来て」

心なしか友人の手は震えていました。
私は言われるままライトの近くに立たされます。

「あっちの壁に向かってゆっくり歩いてみて」

私は訳も分からずに、ただ言われるままにライトから遠ざかり、壁へと歩きました。
そして、壁のすぐ近くまで歩いた時、私は恐怖で腰を抜かしました。

「影が小さくなっている・・・」

気付けば私は、今までに経験したことのない震えと鳥肌に襲われていました。
そう、光源から離れて壁へと近づいた私の影は、だんだんと小さくなっていったのです。

少し考えれば分かる事でした。

昨日見た時、あの影の主は人間と変わらない大きさ・・・。
つまり、襖のすぐ近くまであの影の主は来ていたのです。
今はもうあの家に戻りたくないので友人の家に泊めさせてもらっていますが、もし気付かないままあの家に住んでいたら私はどうなっていたのか。
それを考えると、未だに震えが止まりません。

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