じいさんから聞いた話。
戦友の体験談だそうな。
戦争に行った時、怪我をして寝ていたら何か声がする。
「何かしてやろうか、何か願いないか」
なら故郷の家族に腹一杯メシ食わせたい、元気に生きてほしい、そんなら俺は一生空腹でも今死んでもいい、とお願いしたと。
声は分かった、とだけ言って消えた。
戦争終わって帰ったら、嫁さん子供も親たちも兄弟姉妹みんな元気だし、腹も減らした様子がない。
案外本土も豊かに暮らせてたのかと安心したが違うらしい。
夜中に台所から音がしたから行ったら、米や野菜が投げ込まれていたり朝、玄関先にまだピチピチしてる魚や果物が置かれていたりした。
空襲もなかったし、みんな風邪一つ引かずに終戦を迎えられた。
それを聞いた戦友は神棚を拝み倒し、とにかく約束を守ろうと腹一杯メシを食わない事を家族にも誓った。
あれからかなり経つが、戦友が亡くなった今も、彼の遺した家族は事業繁盛でメシに困らず、ろくに病気もしないと聞いている。
声の正体は不明のままだ。
悪いものではないが不思議という事でひとつ。