今から数年前、俺は関東地方のとある町で、マンションの施工工事をやっていた。
建物自体はほぼ完成し、電気屋、水道屋、内装業者などが仕上げの工程に入った頃、変な噂が立ち始めた。
三棟ある建物の一つで、夜間作業中に男の叫び声を聞く者が続出したからだ。
俺の会社がその建物の工事に入った頃、納期も間近で、徹夜作業が何日か続いていた。
他の業者からその噂を聞いていた俺は、なるべく一人になることを避けた。
なぜなら、その叫び声を聞いた者に限って、怪我や事故が頻繁にあったらしいからだ。
現場責任者はゼネコンのすかした奴で、お払いしろとの要望を無視していた。
ある夜、俺と同僚は徹夜作業になった。
マンションの三階、西側の部屋で配線工事をしていると、同僚が声をかけた。
「今うめき声みたいなの、聞こえたよな」
俺は電動ドライバーを使っていたので聞こえなかった。
「やめろよ。もう俺ら二人しか残ってないんだぜ、気味悪いだろ」
そう言って振り向くと、同僚は壁に耳を当て固まっている。
「ここ来てみろよ、はっきり聞こえるぞ」
仕事が手につかない同僚にちょっといらいらして、俺はその壁に耳を当てた。
何も聞こえないなと思っていると、突然、サッシ窓がガタガタと、音を立てた。
地震じゃなかった。
俺らは互いに顔を見合わせた。
そして、ベランダに面したサッシ扉に目をやった。
二人同時に声を上げた。
頭から血を流した男が立っていた。
顔はぼこぼこに腫れ上がり、
まるで生きている気配はなかった。
もう仕事どころじゃなかった。
俺らは作業詰め所に逃げ帰って、朝が来るのを待った。
ここから先の話は、噂を俺がまとめただけで、妄想フィクションなんだが、つまり、洒落にならない事件の可能性があるってわけで………。
まあゼネコンの玄孫受けみたいな土建屋が、何かしでかした人間を始末したのでは?
基礎工事のコンクリ打つときに、いっしょに埋めたんじゃないかと。
実際、柱付近の外壁に耳を当てると、うめき声が聞こえたのは俺も確認した。
ある部屋なんか、どこの業者か知らないけど、いっぱいお札貼ってたし。