警備のバイト

警備のバイト 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

俺は派遣警備会社でバイトして生計を立てているしがないフリーターさ。
その日俺は泊まり勤務を命じられ、いやいやながらとある会社に宵の口に出勤。

その会社は倉庫会社で、俺が命じられたのは倉庫内の警備。
警備とは言っても盗難避けの為に管理していればいいだけで、所定の時間に定期的にチェックポイントを回ればいいだけの話で、それ以外は仮眠しててもOK。
だから俺はこっそり借りてきたエロビを肴にその日も上機嫌で警備(と言うか暇潰し)をしていた。

異変が起きたのは丑三時の1時過ぎだった。
仕事柄、今までも夜中に時々変な事がおきる事もあったので、そう言うのにはある程度慣れっこになっていたんだ。
でもその日は違った。
いきなり冷たくて、張り詰めた空気が俺を襲って来た。

ピキーンと言う凍った空気の音が今にも聞こえてきそうな気がした。

俺は何故かブルブル震えだした。
震えが止まらないので夏になりかけだと言うのに休憩室にあった分厚いジャケットを羽織った。

それから数十分後に見回りの時間が来てしまった。
どこかにカメラが仕掛けてあるらしく、サボりは即バレてクビになってしまう。
だから行かなくてはならない。

俺はしぶしぶまだ震えが止まらない体を引きずって、見回りに行くことになった。
休憩室を出て、事務所を出て、倉庫に赴く。
もうその時点で俺の心臓は止まりそうだった。
たったこれだけの事で完璧ビビっていた俺を笑いたければ笑ってくれ。
幽霊本体だってまだ見ちゃいないのに。
でも俺はパニクっていた。
あんなに思い空気が襲ってきたのは初めてだったからだ。

そして俺は倉庫に到着。
シャッターの横にある勝手口のような小さなドアを開けて中に入る。

・・・懐中電灯の光の先が何故か揺れている。

!?
俺は懐中電灯を動かしていないのに光と影が動いている。

何かいる。

俺は愕然として光の先を追う。
恐怖のどん底に叩き落された時、人はパニックではなく逆にとてつもなく冷静になるのな。
俺はその時初めて知った。

まあ、ミッションコンプリートしなければお給料はもらえないわけだし、その影の正体を追おうと思い、俺は懐中電灯で動いていた光と影を追った。
どうせネコだろ?
忍びこんでしょうもない奴。
俺はそう思って無理に落ちついた。
嫌な考えは完全に頭の中からシャットアウトした。
何故かその動いていた光と影は見えなくなっていた。

今のことは忘れてどんどん奥に進むことにした。
実はこの程度のことなら今までも何度もあった。
誰も居ないはずなのに光が揺れ動いたり、何かの気配がしたり。
だから冷静になって先に行く。
そして一番奥に到着。
奥には出口はなく、完全に袋小路。
ここで何かに襲われたら俺は逃げられない。
そう思った瞬間、また光が動き始めた。

俺は何故かふらふらしだした。目まいがする。
でもここで倒れたら終わりだなと何故かその時俺は強く思い、気をしっかり持った。
そして俺は何故か叫んでいた。

「俺は見回りだ。お前らには何もしない。だからちょっかいをだすな」

後で昼間に考えたらこれは本気でウケた。
お前らには何もしないからちょっかい出すなって霊に言ってどうするんだよ俺。
自分でツッコんだ。

話を戻すが、俺が叫ぶと何故か正気に戻った。
しかし、奥の壁に貼りついていた何かが俺に向かってこう言っていたように聞こえた

「ここには来るな」

いや、俺が勝手にそう言っているように解釈しただけかも知れない。
俺ももう2度と来る気はなかった。
逃げ帰るような気持ちで、その倉庫を後にした。
3時過ぎの見回りはもう俺は行く気がしなかった。
クビでもいいや。
それより自分の命の方が大事。
結局3時と5時の見回りはすっぽかして、エロビデオを一晩中見まくっていた。
少なくとも俺はそれ以外に恐怖から逃れる方法を思いつかなかった。

馬鹿みたいに何度も再生して何度もコイた。
そうやってさっきの事を忘れる以外に俺には何もできなかった。
夜が明けるのを待って速攻で家に帰った。
たぶんその倉庫会社から派遣会社にクレームがついて、俺は間違いなくクビだろうなと思って居たのだが、クレームは来ていないらしい。
逆にそっちの方が怖いけどな。
その倉庫会社が何かを隠しているみたいで。
もちろん俺は2度とその会社の警備に行くことはないだろう。
他にその倉庫会社に行った奴に聞いてみたのだが、全然そんな事は起きなかったと言っていた。
5人行って5人とも異常なし。
おかしな話だ。
で、結局俺はエロビデオマニアのスケベと言う部分だけ他の警備バイトスタッフの間で有名になってしまった。
オチもついた所でこの話は完結。

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