家宝

家宝 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

所用で親戚一同集まり、ふとだいぶ前に大往生した爺ちゃんの話をしていたら思い出したので、投下。

ここは北の大地。
我が家は北前船でやってきてここに住み着いた一族だ、
というのが爺ちゃんの口癖だった。

実際、爺ちゃんは広い農地を所有していたし、古い農具や昔の道具や船の一部?みたいなものが倉庫にどっさりあった。
綺麗な服や人形遊びよりも、虫とりや秘密基地づくりに興味津々なタイプの子どもだった私を、それは可愛がってくれて、お盆や夏休みに遊びにいくたび、爺ちゃんはこの倉庫を見て回らせてくれた。
用途不明ながらくたの山は、当時の自分には宝物の山に見えて、爺ちゃんを引っ張ってはアレコレ質問攻めにしていた。

ある時、

「うちの家宝を教えてやろう」

と、爺ちゃんが倉庫の2階から何か木箱を持ってきた。
綺麗な木箱の中には綿が詰まってて、その中心に大人の手のひらサイズの黒い箱があった。
それは今でも大事にしまってある。
何の飾りもない長方形の箱で、見た目よりも軽く、振るとカタカタ音がする。
開けると罰が当たるぞと言われたけど、開けようにも蓋もとっかかりもない。
不思議な箱だった。

爺ちゃんいわく、この中身は船の『守り神』なんだそうだ。
正式名称があるのかどうかは分からない。
北前船で交易していたご先祖様が、安全な旅路を祈って船に乗せていたもので、船を取り壊す時にこの箱に入れ直したとか。
しかもこれ、他の船のものよりひときわ力が強いとかで、この『守り神』を乗せた船が海に出ると常に天候が安定したらしい。
ご先祖様はたいそう『守り神』に感謝し、それから代々大事にしてきているんだ、と爺ちゃんは言っていた。

ここから先は、ちょっと爺ちゃんのホラ話かホントか定かじゃないんだが、船から降ろしても『守り神』の加護は続いたそうだ。
たとえば、買い取った土地を開墾するとき、適当に掘ってもどんぴしゃで水が豊富に湧き出したとか。
酷い大しけでも、我が家の血筋の者がいる船だけは、あんまり揺れもせず沈没もせず航海できたとか。
どうやら『海』あるいは『水』に関することに、ご加護があるようだ。

あと爺ちゃんの実体験。
戦時中、海軍にいた爺ちゃんはある日、それまで元気だったのに突然原因不明の猛烈な腹痛に襲われて気絶してしまった。
伝染病だったらマズイので、爺ちゃんを陸に残して部隊は出撃。
そしたら、その部隊は敵艦との大決戦の果て、壊滅的な被害を受けてほぼ全滅になったらしい。
爺ちゃんは決戦の翌日、ウソみたいに意識が回復。
結局最後まで原因不明で、『守り神』の力としか思えなかった。
あの時は仮病を疑われて散々だったが死なずに済んだよ、と爺ちゃんはケラケラ笑っていた。

そんなことを聞かされた当時の私は、今と違って純粋だったので

「爺ちゃん助けた『守り神』スゲー!」

となった。
いざとなったら自分も守ってもらえるかな?とわくわくしたものの、

「『守り神』は女性を嫌う」

と言われて意気消沈。
それでもめげない私は以後、『守り神』にちょっとでも好かれるように、爺ちゃん家に行くときは必ずこの箱にお酒をそなえ、
(神棚があったので神=酒のイメージだった。この『守り神』にはあまり意味なかったらしい)
神様は女性だと知った後は、ヘアゴムとかビー玉とか、プラスチックの宝石といった女性が好きそうなものをそなえ、海に遊びに行くときは手を合わせて無事を祈るとか、子どもながら真剣に『守り神』のことを考えた。

けどまあ、これといって特に何かあったわけではなく、時は流れ。
成長にともない爺ちゃんの家を訪れることも減って、体調を崩した爺ちゃんが大きな病院に入院する事になった時、婆ちゃんも病院に近い伯父さんの家へ移り住んで、例の倉庫のある家は無人になってしまった。

ある夏の日の週末、家族みんなでドライブがてら、爺ちゃんのお見舞いに行くことになった。
向かう途中、無人になってしまった倉庫のある家に立ち寄って、掃除をしていたんだが、その日は妙に虫の声がうるさかったのを覚えている。

特に倉庫のあたり、暑さもあってイライラさせるレベルで。
人がいなくなったから虫が大繁殖したのかねー、なんて家族と話してその時は終わったけど。
で、爺ちゃんを見舞ったり婆ちゃんとご飯食べたりして、あっという間に帰る日に。

しかし当日の朝、私は突然原因不明の高熱を出して倒れた。
前の日まで元気だったのに、まさかの40度越え。
病院行ったけど

「夏風邪?」

で終わり、点滴うっても全然下がらない。
横になってないと辛い。
帰りはフェリーを使う予定だったけれど、私がこんな状態じゃ無理だから、キャンセルして滞在を一日伸ばした。

その夜、あの巨大地震に襲われた。
ものが落ちたり婆ちゃん連れて外に逃げたり、爺ちゃんのいる病院が停電になったり、てんやわんやだった。

一夜明けて、例の島をとんでもない高さの津波が襲ったと知り、家族みんな唖然とした。
幸い、今いる場所の被害はさほどではなかったけれど、予定通りフェリーに乗っていたら大変だったかもしれないし、伯父一家と我が家が同じ場所に居たので、爺ちゃん婆ちゃんのフォローも迅速にできた。
ちなみに私の熱は、地震が起こる直前に急激に下がっていた。
家族は偶然ってあるもんだなあとか言ってたが、私は『守り神』様のおかげだとしか思えなかった。

だから、爺ちゃんの病院に行ってこっそりこのことを話したら、爺ちゃんも賛同してくれた。

「本当はあの『守り神』は女嫌いなんだがなあ。
〇〇(私)がお転婆で男っぽくて、自分をずっと大事に思ってくれたから、守ってくれたんだろうなあ」

ちなみに、倉庫を掃除しに行ったとき虫がうるさかったことも話したら、それはひょっとしたら『守り神』の警告音だったのかもしれないと言われた。
まあ、単に虫が地震の前兆を感じて騒いでただけかもしれないけど。

後日、地震の後始末をしに倉庫を訪れた時(被害は大したことなかった)には静かだったしね。
『守り神』も無事だった。
もちろん綺麗にほこりをとって、おそなえして、改めて感謝した。

このことがあったので、爺ちゃんが大往生した際、『守り神』は私が受け継ぐことになった。
家族は半信半疑だが、今でも私は海や川に出かけるときには、かかさずこれに手を合わせるようにしている。
釣りが趣味なんだけど、おかげさまで出かけるとき悪天候にあたったことは一度もない。

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