希望物件

希望物件 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

去年の秋、6回目の転勤による引っ越しをした。
辞令が出てから新天地へ着任するまで一ヶ月もないので発令後速攻でネットで希望に合った物件を探して5件ほど内覧予約を入れ現地に飛ぶ。
今回、ネットで物色中に嫁がすごく気に入った物件があった。
家賃や広さ、築年数、周辺環境、すべてにおいて希望に合致。
俺もそれは同じだった。
に加えて、通勤が乗り換えなしの30分以内。
しかも最寄り駅まで徒歩5分。
俺の中ではもうこれに決まり!って感じだけど一応現地を見て・・・
ってことで今回はそこも含めて4件ピックアップしていた。
で、いつものように夫婦で現地内覧に行こうとしたら嫁が妊娠発覚して俺ひとりで行くことに。

その希望物件の内覧は一番最後にしてあった。
先の3件、どういうわけかネットの詳細情報の記載ミスがあったり(実際にはLDKが10畳ほどなのに16畳と記載されていたり、駅から徒歩25分が5分になってたり)
写真でみたものより実際はかなり酷い状態だったり。
毎回利用している全国チェーンの不動産会社で、こんな不手際は今までなかったし担当者も何度も何度も謝罪しつつも訳が分からないふうだった。
「あー、これはもう希望物件にしろってことか」と冗談で思いながら最後の内覧に向かった。

その物件、外観は実際の築年数より新しく見えた。
入口付近も綺麗に掃除されていて、聞けば週一で清掃業者を雇っているらしい。
エレベーターの中もきれいだし、ガラス窓がついてるから防犯的にもいい。
共用廊下も住民の質がいいのか、余計なものを置いてなくてすっきりして好印象。
ここで決まりかなと思った。

室内に入るとリフォームしたばかりって感じで明るくてきれいだった。
ガスコンロが3つあるのも納戸があって収納たっぷりなのも嫁がいかにも気に入りそうでポイントが高い。
そして持参したデジカメで写真撮りまくろうとしたら電源が入らない。
かなり古いデジカメなので、壊れたかな、寿命かなと思いながら仕方なくスマホで撮ったが、なぜか写メ撮れてるはずなのに保存ができない。
まぁいいや、物件情報の写真通りきれいだしと思いながらベランダを見たら結構奥行あって広い。
景色も良さそうだとベランダに出たら突然ゾワッと両腕に鳥肌が出た。
秋とはいえ日差しの強い日だったし風もないのに。
その感じがどうにも気味が悪かった。

「やっぱりこの部屋嫌だ」

そう思った瞬間、体が前にドンッと突き飛ばされた。
案内の営業マンが「大丈夫ですかっ!」と声を掛けてくれたけど吐き出し窓の桟に躓いたんだと思ったらしい。
絶対躓いたんじゃない。
でも言葉が出なかった。
それでもそれだけなら気のせいかもと思っただろう。
それぐらい他の条件は良かったから。

でも内覧が終わって共用廊下に出たとき、たまたま同じ階の住人らしい若い奥さんと目が合って
その人がアイコンタクトで「ここはやめとけ」と言ってるように思えた。
ほんの少し首を左右にぶんぶん振ってたようにも見えたし。

結局どこにも決められずに帰宅し、嫁に酷く叱られた。
嫁にはあの感覚は理解してもらえないから「あんないい物件、さっさと契約しないと取られてしまうじゃん!」って。
でもあそこだけは嫌だって言い続け、再びネットで物件探ししてる時にちょうど2chで話題になっていた大島てるの存在を知り、検索かけてみたらビンゴだった。
その部屋は10年ぐらい前ではあるが飛び降り自刹があったところだった。
それを嫁に見せたら「ごめん、でかした」だとさw
今まで生きてきて一番衝撃的だった体験がこれ。

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