サンユキサマ

サンユキサマ 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

私のじいちゃんは、私が小さかった頃によく山の話をしてくれた。

その頃はまだその話を信じていたけれど、年を重ねるごとに、それらの話はじいちゃんが私を楽しませる為にしてくれた与太話だと思うようになっていた。
しかし、最近母ちゃんからある出来事を聞いたことで、じいちゃんの話は本当かもしれないって感じてきたんだ。

ちょっと記憶が曖昧な部分があるんだけども、じいちゃんから聞いた話を投下するよ。
伝聞語尾は鬱陶しいから外すね。

じいちゃんが小学校に通っていた頃。
じいちゃんは山間部の小さな村に住んでいて、よく山に入っていた。
遊び……もあるけども、山に入る理由の大部分は茸や山菜を取ったり、ウサギを捕まえるといった食料収集だったのだ。
しいちゃんって六人兄弟の末っ子なんだけども、じいちゃんと三男・五男のじいちゃんの兄ちゃんがその仕事を割り当てられてたんだ。
で、最初の頃は三人で茸なんか取ってたんだけども、その内じいちゃんも慣れてきたからっていうんで、三人バラバラに山に入るようになった。

ある日、じいちゃんはウサギを捕まえる罠を仕掛けに山に入っていった。
罠を仕掛けるポイントってあるんだけど、今日は違うポイントを発掘しようといつもとは違う場所にやってきた。
道なんてない。樹木と雑草で覆われた荒れた所を、ずっと登って行った。
で、この辺りかなと思われる場所にやってきて、さぁ罠を仕掛けるぞと腰を屈めた時だった。

ガサガサ

じいちゃんの後方から、物音がした。
ウサギだったらラッキーだけど、猪だったらどうしよう……と罠を仕掛けようとした手を止め、おそるおそる後ろを振り返った。
草陰に隠れ、よくは見えない。
けれども草陰に隠れるのならばウサギかウリボーだなと思い、すくっと立ち上がってみた。

しかし、そこにいたのは鶏だったのだ。
村で鶏を飼っている今田さんのとこのかな?と思ったのだが、こんな山奥まで鶏を放すわけがない。
野鶏か!とも考えてみたが、こんな山奥にいるというのに汚れ一つ見当らない、とても綺麗な毛並みだったので、それも違うと考えた。

では何故こんなところに鶏が?
しばらくボーっとその鶏を見つめていたじいちゃんだったが、ある所に気がついた。
この鶏、鳴かないのだ。
首を振る動作、体の動き、見た目。それらは全て鶏のそれだったのだが、鳴き声というのか、「コッコッ」っと小刻みに鳴くあの声がなかったのだ。
変な鶏だなぁ、でも捕まえたら母ちゃん喜ぶかなぁとぼんやり考えながら、その鶏に近づくじいちゃん。
鶏は動じず、雑草を啄ばんでいる。

よし、今だ!と鶏に手を伸ばしたじいちゃんだったが、何かに気がつき手を止めてしまった。

鶏の後方、5メートルほど先に家があったのだ。
鶏を見つけた時、この山を登ってきた時、そんな家など見当らなかった。
けれども、何故見落としたのか不思議に思うぐらい、とても大きな家、いや屋敷だった。
こんな山奥に誰か住んでるのかぁ、知らなかったなぁ、とじいちゃんは鶏のことよりもその家に興味が湧いてきた。
その屋敷は村の地主の家よりも大きく立派で、門もとても頑丈そうで重そうだった。
で、二階建てだった。
なんか知らんがじいちゃんは二階建てだぞ!って強調して話してた。

門は開いていて、中の様子が窺えた。
じいちゃんが門に近づいて中を覗いてみると、不思議な光景が広がっていた。
見たことも花々が参道横に咲き乱れ、塀の左右には小屋があり、その小屋に繋がれていない馬と牛が、十頭ずついたのだ。
そして家の前には、先ほどの鶏と同じ鶏が五羽いた。

すげーなーと嘆息をするじいちゃん。

しかし、はたと気づいて体が硬直してしまった。
牛も馬も鶏も鳴いていないし、こんなに動物がいて花も咲いているのに臭いもない。
おかしい、変だ、と思うより先に怖くなってしまったのだ。
そして玄関の戸がゆっくりと開いていくのを見て、「ギャー!」とじいちゃんは悲鳴を上げて逃げ出した。

全力疾走。
その家と反対方向に走ったら山を登ることになるというのに、じいちゃんはパニックになっていて反対方向に走ってしまった。
けれども、屋敷と反対方向に走っていったのに、いつの間にか山のすそまで下りて来ていた。

やった!と思ったじいちゃんは、そのまま自分の家まで走っていった。
家に着いたじいちゃんは、母ちゃんの元まで走り寄り、興奮しながらあの屋敷のことを話した。
すると母ちゃんは青ざめた顔をして、外に出て行ってしまった。
母ちゃんの様子を見たじいちゃんはさらに怖くなってしまい、とうとう泣き出してしまったが、すぐに母ちゃんが戻ってきてのを見て、泣き止もうとした。

母ちゃんはじいちゃんが泣いたらめちゃくちゃ怒ったかららしい。
母ちゃんは父ちゃんを連れて帰ってきたのだった。
父ちゃんはすごい剣幕でじいちゃんから話を聞き、じいちゃんの手を握った。

「お前が見た家は、サイ○○サマ(忘れた)なんだ。挨拶はしていないだろ。だから今から謝りに行くぞ」

じいちゃんの返事も聞かず、父ちゃんはじいちゃんを連れて山のすそにある神社に向かった。

「挨拶しなくてすいませんって謝りなさい」

父ちゃんがそう言うもんだから、じいちゃんは黙ってそれに従った。
それからじいちゃんは何度も父ちゃんや母ちゃんにサイ○○サマってなんなの?って聞いたのだが、全く教えてくれなかったんだとさ。
ただ、サイ○○サマに出会ったらきっちり挨拶しろって言われただけ。
その屋敷がサイ○○サマなのか、その屋敷に住むのがサイ○○サマなのかも教えてくれなかったんだってさ。

じいちゃんはそれ以来、その屋敷をみた事はなかったという。
同じ体験をした人や聞いた人っていないかな。
ちなみに東海地方の話。



後日談
じいちゃんは十五年前に他界して、もう一度聞くことは出来ないんだ。
でも、さっき別件で母ちゃんに電話した時に聞いてみたよ。
母ちゃんは「サンユキサマ」って覚えてた。
でも私は「サイ~」って名前だと記憶してるんだよな。

あ、じいちゃんは母方のじいちゃんね。
で、ある出来事っていうのは母ちゃんが家族旅行でじいちゃんの故郷に行った時のこと。
母ちゃんが結婚する前だから、昭和三十~四十年代だと思う。
じいちゃんは故郷に着くやいなや、山に向かったんだと。
黙々とじいちゃんは山に登っていくし、ばあちゃんと母ちゃんは仕方なくじいちゃんを追って登ったんだ。

かなり山の奥までやってきた時。
いきなりじいちゃんが立ち止まり、がくっと膝を落としたんだってさ。
どうしたんだと母ちゃんとばあちゃん。
じいちゃんが立ち止まったのは、拓けた所だったらしい。

で、じいちゃんいきなり号泣。

「すまんかった……すまんかった……わしは出来なんだ……」って呟きながら。

その話を聞いて、私はじいちゃんが山男と出会った話を思い出したんだ。
それで、あれは与太話じゃなかったんだって思えてしまってな。

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