この部屋辺りにあるはずだ

この部屋辺りにあるはずだ 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

俺の友人が体験した怖い話

俺の友人もとい彼は、数年前まで東京の飛び込み自殺で有名な某路線のすぐ側のアパートに住んでいた。
それこそ窓の直ぐ側に線路があるような場所で、
そこに引っ越した最初の頃は、深夜に通過する電車の音と振動で眠れなくなる位の場所だった、
まあ、その所為もあるのか駅の近くの立地にしては家賃も安かったので音と振動も我慢する事にして、数週間も過ごせば次第に彼は電車の通過の際の音と振動を気にしなくなった。

けど、ある時期を境に彼はそのアパートから出ていった。
アパート自体には問題は無かった、音と振動以外は多少ボロい程度でいわくなんて全然無い場所だった。
そう、ある夏の日の深夜までは……

電車の通過音にすっかり慣れた彼は、朝早くからの仕事をやっていたのもあって何時も夜の十二時くらいには寝ていたんだがその時は珍しく、彼は眠れずにぼんやりとテレビを見ていた。
彼は(まあ、明日は休みだし、夜更かしも悪くないかな……)なんて考えていたその時だった。

プワァァァァァぎぎぎぃぃぃぃどんっぎゃがががががぎゅぎゅぎぎぃぃぃぃぃっっ……

夜風を取り入れる為に開いている窓の外から、けたましい警笛と同時に何かを轢き潰した様な嫌な音が響いた。
思わず彼は窓の方を見ると、側の線路に何時もは通過して行く筈の電車が止まっている。
良く見れば電車の乗務員らしき人が電車から降りて何やら物々しい会話をしている。

「あぁ……またか……これで何度目だ?」
「おい、そんな事より早くOOOに連絡しろ、こりゃあ助からんと思うけどな」
↑(OOOは良く聞こえなかったらしい)
「こいつはかなり時間を食いそうだな……XXXが車輪に巻き込まれてやがる」
↑(XXXも良く聞こえなかった)

。oO(うぇ……って事はさっきの音は人を車輪に巻き込んだ音かよ……嫌なのを聞いちまった……)

その時、彼は初めてその電車がついさっき人を轢いたのだと気付いたのだった。
其処から先は、事故の処理を始めた乗務員たちの声と音を聞くのが嫌になり、直ぐに窓をピシャリと閉め、布団を被った。
だが、それでも彼が受けたショックは大きかったらしく、その日は一晩中寝る事は出来なかった。

気の弱い人間だったらこれだけでアパートから出て行く理由になってしまうのだが彼は「この路線は自殺が多いって聞くし、一度はこう言う事が起きると思ってた」とか言ってアパートから出て行く事は無かった。

だが、その日の翌日からだ。夜になると部屋に”それ”が出るようになったのは……
初めは寝ている最中にふと目が覚めた時、何かぼんやりとした靄の様なものが見える程度だった。
けれど、日々を重ねるにつれ”それ”は人であるが、生きていない存在だというのに気付いた。
無論、彼は”それ”に気付いてから、寝付く事が出来ず寝不足になっていく。

流石に飛び込み事故程度ではへこたれない気の強い彼でも毎日毎日こんな事があったのでは堪った物ではない。
このままでは仕事にも影響があるし、最悪の場合、自分の体が壊れてしまうだろう。
そう考えた彼は”それ”が現れる原因を探る事にした。

彼は何時もであれば”それ”が現れた時は布団を目深に被り、見ない振りをするのだが原因を知りたい彼は、今回は”それ”をじっくりと観察する事にした。

”それ”は決まった時間帯に現れる、深夜の暗い部屋、何も無い所から湯気の様にぼんやりと現れる白い影。
”それ”はゆらゆらと部屋の中を一周り二周りとグルグルとうろつく、そして朝が近づき、日の光が部屋に差し込む頃になると”それ”は姿を消す、それが”それ”の行動の決まりだった。

観察して気付いたが”それ”のその動きはまるで何かを捜している様な感じがした。
そして”それ”は何かを独り言のようにブツブツと喋っていた。

『…い……無い……見つからない……どこだ……どこにあるんだ……無い……見つからない……』

。oO(……こいつ、何かを捜しているのか?……けど、何を?)

彼は”それ”の言っている意味がいまいち理解が出来ず、更に観察して見るとある事が分かった。
”それ”は左腕が無いのだ、左の肩から先がすっぱりと無いのだ。

彼はそこ初めて”それ”が何を捜しているのかが理解できた。
”それ”は自分の左腕を捜している、そして”それ”が捜している左腕はこの部屋の辺りにあるのだと……

。oO(しかし、あいつは一週間も俺の部屋で左腕を捜しているのに何で見付けられないんだ?
俺の部屋はそう散らかってはいないのに?それにあいつの左腕なんて知らんぞ?)

そうぼんやりと考えながら、彼の意識は闇の中へと沈んでいった。

その翌日、部屋の外からのけたましいサイレンの音で彼の目が覚めた。
。oO(どうやらあのまま寝てしまっていたのか…)、
そう友人は思いながら体を起こして見ると線路の見える方の窓の外で何人かの警官らしき影が何かをやっていた。
気になった彼は窓を開け、そこに居た警察官に何をしているのかを聞いて見る事にした。

「あの、おまわりさん、さっきから何やっているんですか?サイレンの音で目が覚めたんですけど……」
「ああ、済みません……で、何をしているかと言うと……それは……言って良いでしょうかね?
ちょっと言い難いのですが……本当に良いですか?」

妙に言い渋る警官に対して、彼がしつこく問い掛けると警官は渋々ながらも語り始めた。

「それが……ここに住んでる貴方なら知っているかもしれませんが、一週間近く前にこの付近で飛び込み自殺がありまして……
その時は自殺した人の遺体の一部が見つからなかったんですよ……で、今、それが見つかったんですが……」

彼はそれを聞いて、ある事を確信した…そして、それを警官に言う事にした

「ひ、ひょっとしてひょっとすると……それは左腕では……?」
「あれ?知っているのですか?貴方の言う通り自殺者の左腕が貴方の居る部屋の窓の上の雨樋にはまっていたんです。
線路の保線をしている職員がたまたま見付けて通報したんですよ。
しかし見付かって良かったですよ、あのまま見付からなかったらずっとそのままですからねぇ……」

それを聞いてふと他の方を見ると、はしごに登った警官が雨樋から何かを拾い上げ袋に入れる所が見えた。
恐らく、あれが”それ”の捜していた物なのだろう……

。oO(そうか……だから、”それ”は左腕を俺の部屋で捜していたのか……其処に飛んでいったと思って……
見つからない筈だ、まさか雨樋に嵌まり込んでいるとは誰も思わないだろうな……)

捜していた左腕が見付かったからだろうか、その日以降”それ”は、部屋に現れる事は無くなった。
だが、”それ”が現れなくなったにも関わらず、彼は直ぐに部屋を引き払い引っ越す事にした。
俺がその理由を彼に聞くと、彼はこう答えた。

「これから先、同じ事が起こらないって保証は何処にも無いからな。
万が一、同じ事が起きた時に死体の一部が窓を突き破ってきたら怖いじゃないか」

俺は、そんな彼の豪胆さがある意味怖かった。

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