タクシーに乗った女性客

タクシーに乗った女性客 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

8月14日、その日からやっと俺は夏休みがもらえた。
休みになる前の3日間は久々に仕事に追われ、ほとんど徹夜でCADとにらめっこし仕事をなんとか片づけた俺は、その日爆睡していた。

夕方電話の音で目が覚めた。
電話の主は沖縄にいたときの友人Sだった。
Sとは中学の時に、家のお払いのために親戚のユタのおばさんを紹介して以来家族ぐるみの付き合いをしていた。
それでもSと話すのは約6年ぶりだろうか。
Sは沖縄で仕事がないため、年のはじめから東京で働いているらしい。

一通りの雑談をした後Sは、
「東京で相談できるのはお前しか思いつかないから話を聞いてくれないかな」

そう言われて俺は
「じゃ今から晩飯がてら待ち合わせるか」

そう言ってSの住む場所を聞くと、俺の住む場所からわりと近いところに住んでいた。
俺は分かりやすい場所を指定して待ち合わせることにした。

店に着いた頃には7時を過ぎており、店も混み始めていた。
Sは俺よりも先に着いていた。
今現在Sはトラックの運転手をしており、その前はタクシーの運転手をしていたそうだ。

飯を食い終わり俺はSに相談内容を聞いてみた。
「相談てなんだよ?」
Sに聞くと、神妙な顔をしながら話し始めた。

話は3月にさかのぼる。
夜の11時頃に女性客を乗せて行き先を聞くと北富士のゴルフ場に行ってほしいと言われ、
場所がよくわからないから時間がかかってしまうかもしれないけど良いですか?
そう聞くと女性は
「それでも構わないのでお願いします」
11時過ぎにこんな長距離を拾うなんてSは喜んだ。

F駅から出発してすぐにSは高速を使うか尋ねた。
女性のOKをもらいタクシーを高速に向けて走り出し、高速に乗ると女性はSに次のSAで飲み物を買いたいので寄ってもらいたいと言ってきた。
客の指示どおり石川SAで一旦タクシーを止めて、女性が戻るまでの間Sは地図を広げてゴルフ場の場所を探した。
だが探す前に女性は戻ってきた。

後部座席を開けると女性は、
「前に座らせてもらえませんか、何もしませんから」
笑いながらそう言われてSは、女性が綺麗だった事もありわくわくしながら前の席に乗せたそうだ。

隣に乗ってきた女性は、Sにコーヒーを差し出してくれた。
それに気を良くしたSは、目的地に着くまでの間ずーっと喋り続けたそうだ。
河口湖ICを降りて139号線に入って、Sは目的地を確認したいので地図を見てもいいかと尋ねると女性は、
「場所は大体わかるからいいですよ」
そう言われてSは
「それじゃ近くなったら教えてください」
そう言ってまた雑談を始めた。

しばらく走っていると、辺りに何もない事に気づいたSは心配になり女性に尋ねた。
「こんな時間にゴルフ場にいかれるんですか?」
すると女性は
「本当は最終の電車で着く予定でいたんですが、乗り遅れてしまって」
それを聞いてSも安心して
「泊まりで朝からラウンドの予定だったんですか」
そう言って笑ってすませた。
そして精進湖にさしかかった時女性が
「あっ、この辺でいいですよ」
Sはそう言われ
「でもこの辺何もないじゃないですか」
そう聞くと
「湖の横に泊まる場所があるんで大丈夫ですよ」
そこまで言われるとSも何も言えず、タクシーを止めた。

Sは女性が降りる前に、自分の名刺を渡し、
「また利用する事があったら是非お願いしますね」
そう言って女性と別れた。
それから1ヶ月が経過した頃から、Sの周りで奇妙な事が起こり始めた。

夜中繁華街を流していても、誰も手をあげてくれないのだそうだ。
そしてSの後方から来るタクシーに乗ってしまう。
あまりにもそんなことが続いたある日Sは、一人の酔っぱらいの客を乗せた。
かなり酔っていたその客はSにむかって、怒鳴り始めた。
「あんたも仕事だろ、だったら隣に彼女なんか乗せて仕事しちゃいかんだろ」

怒鳴られたSは
「そんなことはしませんよ」
そう客に言い返すと客は
「じゃー研修か何かなんだな、そいつはすまん」
そう言いながら笑っていた。
しばらく走りその客を降ろした後、Sはもしかしたら自分に見えない何かが乗っているのだろうか。
そんな事を考えながらも仕事を続けた。

繁華街で客を拾える事はそれからほとんどなくなり、そのかわりに1週間に3度から4度、長距離の客をつかまえられるようになった。
でもおかしな事に、その全ての客の行き先は大月方面だった。
やっぱり何かおかしい。
そんな事を考えている時にある1人の客を乗せた。
客を乗せて目的地に着くとその客はSに聞いてきた。

「運転手さん、隣に誰か乗せてるの気づいてる?」

そう言われてSは

「やっぱり誰かいるんですか」

逆に聞いてみた。
すると客は

「降りて話しましょう」

Sもそれに従い車外で話を聞き始めた。
その客は自分が住職であることを告げ、

「これは私の助言として聞いてください。
今すぐにこの仕事を辞めなさい、でないとあなたの身に災いが降りかかるおそれがあります」

そう言って、少しここで待っていてくださいと言い家からお札を持ってきて、助手席にそえてお払いのようなことをしてくれた。
Sは住職の助言にしたがい、会社を辞めたそうだ。
そしてすぐにトラックの仕事を始めた。

それからは妙な事はなかったのだがある日、南小谷までの配送を頼まれて、夜中に中央高速を走っていた。
そして大月ジャンクションにさしかかった時に、Sのトラックの横をタクシーが抜いていこうとした。

そのタクシーを見ると助手席にSが乗せた女性がいた。
その女性はじっとSを見ていたそうだ。
Sは自分自身に
(気のせいなんだ、気のせいなんだ)
と言い聞かせ、高速を降りて国道で南小谷まで向かった。
その帰りもSは高速を使った。

帰りは逆だから大丈夫だろうと思い走ったが、やはり同じ場所で同じ事が起こったのだそうだ。
Sの話を一通り聞いて俺は
「今はもう平気か」
と尋ねた。

すると
「今はちょうど夏休みもらってるから変なことはないけどな」
そう言い終わるとSは、
「なんで彼女がみえたのかな?」
逆に聞かれた。

Sは自分が女性をおろした場所がどういう場所かしらないらしい。

俺は
「お前なんも知らんのか、お前が女の人おろした場所の横は青木ヶ原なんだぞ」

Sはキョトンとして
「なんだそれ」
と言ってきた。

「自殺の名所だよ」
それを聞いてSはやっと理解したらしい。

「お前住職の行動とかで理解しなかったんかい」

Sは自殺とかは一切考えなかったらしい。
何か事故にでもあったのかもしれない位は考えたらしいが・・・・。

それからSは、自分はその場所に行って線香でもあげなきゃいけないといいだした。
俺は冷たくやめとけといったが、聞いちゃくれない。

「行くなら1人でいけよ、俺は行かねーよ」

そう言うとSは俺のことを薄情者よばわりしはじめた。
あまりのしつこさに、俺も諦めて一緒に行くことにした。

「なにが嬉しくてこんな夜に、それもお盆に自殺の名所に行かなきゃなんねーんだ」

そう吐き捨てながら、Sが女性をおろした場所に向かった。
思ったよりも高速は混んでなく、夜中の1時前にはその場所に着き近くの樹海の入り口で線香をあげるように、俺はSに促した。

その女性が本当に自殺したのかどうかは俺にはわからん。
でも何となくそうなんだろう。
線香をあげながらSは動こうとしなかった。
あまりこんな所には長くいたくはない。
そう思い強引にSを捕まえ車に押し込み樹海を後にした。

Sは落ち込んでいた。
俺はSに声をかけた
「その女の人綺麗だったの?」
するとSは真顔で
「すげーいい顔してたよ、もろ好みだった」
そう聞いて俺は少しでも元気が出ればいいけど、そんな事を考えながら車を走らせた。
雑談をしながら走っているとSがいきなり大声をだした。

俺を見ながら

「もっとスピードを上げてくれ」

俺はいきなり何だよ、と怒鳴り返した。

Sは後ろを指さしながら

「彼女が付いてきてる」

場所が場所だけに洒落にならん。
そう思い出来るだけスピードを上げなんとか高速に乗っかった。
家に付くまで俺は出来るだけ後ろを見ることはしなかった。

余談

Sが彼女に名刺を渡しながら、是非お願いします、と言った後彼女は

「必ず呼びますね、呼んだら絶対に来てくださいね」

そう言って降りていったそうだ。

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