これは、看護師をしている友人の綾子(仮名)から聞いた話。
綾子は数年前まで、兵庫県にあるかなり大きな病院で救急治療室担当として働いていた。
その病院の救急治療室には、普段は倉庫として使われているドア付きの小さな部屋が併設してあった。
しかし、運ばれてきた患者が叫んだり暴れたりして他の患者の迷惑になると判断されると、その小部屋に患者が隔離されることになっていた。
ある日、完全に精神倒錯で暴れて手がつけられない状態の患者が事故で運ばれて来た。
どうしようもないので、最低限の処置をして隔離部屋に落ち着くまで入ってもらうことになった。
患者はしばらく叫んだりしていたが、段々と「うわあぁ!来るな!来るなー!!」というような言葉が叫び声に交じるようになった。
そのうち、「開けてくれ!来るー!来るー!!闇の大魔王が来るんだー!!」と言いながら、ドアをバンバンと叩くようにまでなった。
さすがに不審に思った看護師がドアを開けると、「闇の大魔王が来る!ここには居たくない!出しくれ!!」と懇願された。
看護師一同は「闇の大魔王って(笑)」と思ったが、患者は最初のような手が付けられないような状態ではなかったので、普通に他の患者と共に寝かせてその時はそれで終わりだった。
しかしその数週間後、また同じように暴れる患者が運ばれて来たので隔離部屋に入れたところ、前の患者と同じように「闇の大魔王が来るー!」と狂ったように怯えていた。
その後も数名の患者が全く同じように『闇の大魔王』について怯えて話すので、看護師たちも“何かあの部屋はおかしいんだ”と思うようになった。
綾子は今では別の訪問看護中心の病院で働いているので、その部屋がどうなっているかは分からないが、「最初は笑い話だった『闇の大魔王』が、何人もの患者から口にされるのが怖くなった」と言っている。
その部屋には本当に何かがいたのだろうか・・・。
それにしても、自分で『闇の大魔王』と名乗っていたのなら、そいつはちょっと可愛いなと思ってしまった。
綾子はその病院ではいくつかそんな不思議な体験をしたらしいので、やはりそういう事が多い場所だったみたいだ。