赤ん坊の泣き声

赤ん坊の泣き声 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

児童虐待、という言葉が新聞に載り始めた頃の話だ。当時俺は実家で夏休みを満喫していた。
と、夏休みを家でごろごろしながら過ごしているうちに、あることに気付いた。
近所から赤ん坊の声がやけに響いてくるのだ。
初めは昼間っから大声で泣き叫ぶ赤ん坊に参っていたのだが、
その泣き声が異様に長い気がするのだ。

普通、赤ん坊が泣いたら母親なり他の大人なりがあやしたり寝かしたりでその声を止めるはずである。
が、酷いときには3時間程泣きっぱなしのときもあるのだ。
当時は子供が虐待死、放置されて死亡、なんて事件もテレビで騒がれたりしていたので、
だんだんと、もしかしたら虐待か!?と俺は疑うようになった。

そして、赤ん坊の泣き声に気付いてから数日、俺はその赤ん坊がいる家を突きとめようと思った。
そして相変わらず泣き声が響く昼間、俺は家を出て、その泣き声を頼りに近所を探した。
が、声をたどっていくと、だんだんと住宅街を離れて行く。
むしろまだ家が建っていない、工事現場や原っぱのある、自然の多い地区から聴こえて来るのだ。
変だなと思いつつ声の元を探していると、ついにある空き地にやってきた。
空き地は草がぼうぼうに生い茂り、しかし民家はおろか小屋の様なものさえ見当たらない。
が、その空き地の中央から「おぎゃあ、おぎゃあ」と大声がうるさく響いているのだ。
恐る恐る、草を足で踏み倒しながら空き地の中に入って行く。
と、空き地の真ん中あたりは草の丈が低くなっており、何かがいるのが見えた。
オギャアオギャア。 相変わらず声が響いている。
歩みを進めていくと、茶色いしっぽが揺れているのが見えた。
猫だった。

空き地の中央に、猫が後ろを向きながらしっぽを揺らしていた。
オギャアオギャア。声は猫から聴こえている。
俺は思わず「オイ」と声を掛けた。
猫が振り向く。その顔は、人間の中年の男の顔だった。
俺が「うわああっ」と言って尻持ちをつくと、
猫は、いやその男は「オギャアアアアアアアア!! はははあぁ!!」と人間の言葉で叫ぶと、走ってどこかへ行ってしまった。

俺は必死に走って家に逃げ帰ると、母親が「どうしたの、あんた真っ青よ」と声を掛けて来た。
今見たことを息も絶え絶えに放して聞かせると、「あら、人面猫ってのもいるのねぇ」と、呑気なことを言っていた。
母は強い。

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