家への電話

家への電話 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

ある年の夏の終わり頃の事でした。
私が住宅街の中にポツンとあるカフェバーで働いていた時の話です。
その店はあまりお客も来ず、私と友人達の恰好の溜り場となっていました。

ある時、いつものように開店準備をしている所に、友人が彼女を伴いやってきました。
普段は私達の笑いの中心にいるとても明るい奴なのですが、その日に限り妙に無口で、顔色も悪い様に見えたので、少し心配になったのを覚えています。
とりあえず私は声をかけました。

「どうした?元気無いじゃん。何かあったのか?」
「ああ、すげぇー怖い事があった・・・」
「何だよ、怖いことって。また幽霊か?」
「・・・・・」

しかし、それっきり彼は黙り込んでしまいました。
彼女もまた、彼に口止めされているらしく、何も話してはくれませんでした。
彼は霊感が強いようで、これまでにも何度か自分の不思議な体験談をしてくれていたので、私としては『あぁ、また幽霊なんだな』という感じでした。
ただ、今までと違っているのは、いつもは無理にでも聞かせようとする位だったのですが、今回は何も話そうとせず、じっと頭を抱えて黙り込んでいるのです。
私は段々好奇心を抑えられなくなり、どうしても聞き出してやろうという気になりました。

その後、何とかその話を聞き出そうと、彼とその彼女にしつこく尋ね続けた結果、彼はやっと重い口を開き、不思議な体験を語り出したのです。
それは、このような話でした・・・。

その日、彼は専門学校の研修旅行を終え、自宅のある駅に到着しました。
ふと家の鍵を忘れてしまっているのを思い出し、念の為、家に電話を入てみる事にしました。
人の居なくなる事が稀な家なので、やはり数コールで誰か出ました。

「もしもし、俺だけど。いま××駅。鍵がないから、鍵開けといてよ。お願いねー」

と、一方的に喋ると、電話を切ってしまいました。
そしてバスに乗り、家路についたのです。

家に着くと、困った事に鍵が開いていませんでした。
彼は不信に思い、家の廻りを見て回りましたが、家の中には人の気配がなく、静まり返っていました。
しかし、数分前までは誰かが電話に出ていたので、何所か窓から見えない所に居るのだろうと思いました。
もう一度電話をしてみようと思い、近所のタバコ屋の店先にある公衆電話へと向かいました。

電話をしてみると、また数回のコールで誰かが出ました。

『ガチャッ。・・・・・・・・・・・・・』
「もしもし、俺だけど」
『・・・』
「もしもし!もしもし!!」
『・・・・・・・・』
「もしもーし!!もしもし!俺だってばっ!!」
『・・・・・・・・・・・・・・・』

なぜか相手は黙ったままです。

その後、数分置きに電話をしてみたのですが、どうしても通話が出来ない状態なので、電話の故障だと思い、家の前で家族を待ってみることにしました。

しばらくは家の前で途方にくれていたのですが、ふと玄関脇に予備の鍵を隠してあったことを思い出し、やっと家に入ることが出来たのです。

しかし、家の中は静まり返っていて、どの部屋にも人の気配はありませんでした。
また、電話にも異常はみられず、きちんと使用できる状態だったのです。
これはおかしいと思った彼は、もう一度だけ、公衆電話から電話をかけてみることにしました。
そして、きちんと鍵が掛かっているを確認し、先程の公衆電話へと急ぎました。

少し緊張しながらダイヤルすると、先程のように誰かが電話に出るのたのです!
驚きながらも、まだ家族のイタズラの可能性を捨てきれなかった彼は、電話の相手に呼びかけたのです。

「もしもし」
『・・・・・』
「もしもし、姉ちゃんなんだろ!答えろよ!!」
『・・・・・』
「なぁ、誰なんだよ!」
『・・・・・』
「オマエ誰なんだよ!!答えろってば!!」
『・・・・・・・・・』

しばらく呼びかけていても、一向に相手が応答しないので、彼はこれで最後だと、こう呼びかけたのです。

「オマエ誰なんだよ。そこにいるのは分かってんだよ!誰かいんだろ!!」

すると、長い沈黙の後、

『・・・・・ダレモイナイヨ・・・・・・・』

と、初めて相手が答えたそうです。
今まで一度も聞いたことの無い、どこか遠くの方から聞こえてくるような雰囲気の声でした。
彼はびっくりして受話器を叩きつけると、家へと急ぎました。

そして家に着くと、すぐさま家中を見て回ったのですが、鍵の開いている窓もなければ、人の気配もしなかったそうです。
しかし、一つだけ彼を再びゾッとさせた事がありました。
それは、居間の電話の受話器が外れて、床に置いてあったそうです。

私は未だに、この話をしたり聞いたりすると鳥肌が立ち、体中の毛が逆立つのを感じるのです。

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