小学生だった頃のことだけど、怖いというよりは不思議な話をひとつ。
近所に秘密基地って呼んでた廃工場みたいなところがあって、呼び名のとおり俺らの遊び場所になってた。
変なガラクタ集めて宝として保管したり、ドラム缶にたまった雨水に考えつく限りの汚い物入れて毒液つくったり。
実はその廃工場には俺達以外にもいついてる奴がいて、それがブラックサンタと呼んでた浮浪者だった。
なんでブラックサンタかというと、単に見た目がそんな感じ(ヒゲモジャ+黒っぽい服)だったからなんだけど、いつの間にか実はサンタクロースの対になる邪悪な悪魔の化身で~みたいな厨ニ設定を作って、さらに自分たちで作った設定にも関わらず本気で信じて恐れてた。
まあ恐れているといっても好奇心には勝てないもので、こっそりあとをつける探偵団ごっこしたり、ねぐらにピンポンダッシュならぬ投石ダッシュしてみたり。
向こうも向こうで、よくある子供好きの浮浪者という感じでは全くなく、俺らを見かけると怒鳴り散らして追い払おうとしてた。
今考えても、黄疸がかった目とか欠けた真っ黒い歯とか、結構怖いというか気持ち悪かった。
さっきのブラックサンタのねぐらというのは、工場の母屋とは別棟の小さな小屋みたいなところだった。
多分排水処理設備件工作場だったんだと思う。
廃工場を先に発見したのは俺らだったんだけど、そこは廃工場でもいちばん秘密基地っぽいアジトとして使っていたところで、後から来たブラックサンタに追い出された(というか俺らがいない間に住み着いてた)ということもあって、俺らはブラックサンタを敵認定していた。
何か「ブラックサンタに呪われたアジトを取り戻す」というのが俺ら共通の悲願であり使命になってた。
それがある日、なぜかブラックサンタを逆にその小屋に閉じ込めようという話になった。
俺らは奴が小屋の中に入ったところを見計らって、気付かれないように扉をその辺の廃材や針金で固定した。
そのあと様子を伺ってると、中から扉をドンドンやってたからブラックサンタは間違いなく中にいた。
でもその日、俺らは扉を開けたら襲われるのが怖くなって、そのまま家に帰っちゃったんだ。
翌日以降も開けれなかった。
開けたら襲われるというのもあるし、逆にブラックサンタが中で死んでるというのも怖かった。
毎日のように小屋を見に行ったけど、次第にあえて考えないようにして、秘密基地に行かない日が増えてきた。
たまに確認に行っても、固定された扉はそのままだった。
ブラックサンタも実在の人間というより、小学生の間で語り継がれる架空の妖怪みたいな存在になってた。
2年後くらい、俺が小学5年のとき、その廃工場が取り壊されるということになった。
当時のことを知ってる7~8人が集まって、さすがにビビりながらその様子を見てたんだけど、特に何事もなく、工場もその子屋も取り壊された。
恐る恐る作業してた人に聞いてみても、小屋には死体なんてなかったらしい。
でも一時期アジトとして使ってたから隅々まで知っているが、あの小屋には扉以外に出入りできる場所は一切ない。
(おそらく排水処理設備を置いている関係で、防音のため窓がなかった)
なのにブラックサンタは、扉はそのままに消えていたんだ。
ホッとしたような恐ろしいような複雑な気持ちになったが、あの日以来、ブラックサンタは見かけたことがない。
今ではそこにはでかいマンションが建っているけど、俺はその後高校のとき別の県に引っ越した。
今年、あれから14年が経つんだが、その近く(というか小学校の近く)の居酒屋で初めて同窓会をやろうという話になっている。
当時のメンバーは全員集まる予定。
ホラー映画で言うところの、集まったメンバーがひとりづつ惨殺されていき、現場にはブラックサンタの影がというスプラッターフラグですかそうですか。