これは、去年の夏に体験した恐怖話。
その日、ヒューマンから発売されたホラーゲームを友達の省吾と徹夜でやっていた。※名前は仮名
場所は省吾の家。
たぶん、クロックタワーゴーストヘッドというゲームだったと思う。
省吾と二人で黙ったまま黙々とプレイしていた。
このゲームをやった事のある人は分かると思うが、ゲームにはほとんど効果音が無い。
敵が出てくる時だけ音楽が鳴る。
そういうゲームだ。
だから部屋は凄く静かで、時折表の道を走るトラックの地響きがする程度だった。
ゲームを順調に進めていた頃だった。
俺の携帯が鳴り、別の友達からのメールが届いた。
『暇だから今からそっち行くよ』
『わかった、来いよ』
そう返事をして、またゲームに没頭した。
しばらくして、またメールが届く。
『今、省吾んちの近くのバス停』
「早いな~」
「あいつはいつも直前になってメールするからな(笑)」
「じゃあすぐ来るな」
「そやな」
そう二人で話して、またゲームを続けた。
しばらく時間が経った。
部屋は相変わらず静かだ。
・・・が、何かおかしい。
二人とも同じ事を考えていたのか、さらに沈黙していく。
そう、友達が来ないのだ。
もう来てもいい頃なのに、チャイムすら鳴らない。
とうとう堪りかねたのか、省吾が口火を切った。
「おかしいなぁ。あいつ来ないよ?」
「だよな。いくらなんでも遅いよ」
その時、ピーンポーン。
「あ、来たんじゃない?」
「鳴った・・・ような気がするよな?」
省吾も俺も自信なさげに顔を見合わせた。
というのも、チャイムにしては微かな音で、聞き逃しそうなくらいのボリュームだったからだ。
聞こえたかな?という程度の音。
省吾は一人暮らしだったので、もちろん部屋は凄く狭い。
ちなみに1Kだ。
チャイムはもっと響き渡るはずなのに。
でも一応・・・ということで省吾がドアを開けてみた。
が、やっぱり友達はいなかった。
玄関の向こうは無人。
「いないよ」
「やっぱり?聞き間違いかな?それにしてもあいつ遅いよ」
「そうだよな。何やってんだあいつ?他のダチの家にでも行ったのかな」
ピーンポーン。
また鳴った、ような気がした。
「鳴ったよ。っていうかチャイム小さくないか?壊れてんじゃないの?」
「まあ見てくるわ」
振り返るとそこに玄関があり、その床とドアの隙間から向こうが見える。
そこから、オレンジ色のズボンらしきものが見えた。
「オレンジのズボン?見えるよ。いるんじゃない?」
ガチャとドアを開ける省吾。
「あれ?いない?」
念の為にと、廊下と外の階段と、その階段の下も見てみる。
ピンポンダッシュしたとしても、背中ぐらいは確認できるはずだ。
が、誰もいない。
その時、友達からまたメールが届いた。
『開けろよ。入れないだろ!』
「『開けろ』だって・・・」
「俺、ちゃんと確認したぜ?でも居なかったんだよ?」
「どういうこと?」
「知らねえよ!」
ゲームは途中のままでストップしていた。
さらに部屋は静かになっていく。
二人とも訳が分からなくて混乱していた。
「・・・っていうか、何なの?チャイムだって変だし」
「壊れてるのかな?鳴らしてみよう」
ピーンポーン。
さっきと違って、その音は部屋中に響いた。
「壊れてないよ」
「っていうか、めっちゃくちゃ聞こえるんだけど」
「だよな。なんであんなに小さいんだ?」
「・・・ちょっと怖いかも」
「・・・」
「まったくあいつは何処で油売ってるんだよ!早く来いっつうの!」
「早く来て欲しいよ~」
ゲームをやる気にもなれない。
とうとう電源ボタンを押して、テレビもオフにしてしまう。
二人とも押し黙ったまま天井を見上げていた。
何も言う気になれない。
(というか、オレンジのズボン・・・あれ何?)
俺は心の中でそう思っていた。
だけど言う気にもなれない。
トラックの遠い地響きだけが伝わってきた。
その時、またチャイムが鳴った。
ピーンポーン。
黙ったまま、どちらともなく顔を見合わせる。
(鳴ったよ?)
(出るか?)
(さあ?)
とりあえず・・・と、また鍵を開け、ドアを開ける。
そして、友達はそこに居た。
それもかなり怒っている。
どうしたんだろう?と思う間もなく、やって来た友達が開口一番に言った言葉に俺と省吾は恐怖に叩き落された。
「何やってるんだよ、おめーら!俺さっきから百回は鳴らしたぜ?ドアも叩いたぜ?なんで出てこないんだよ!隣の人が代わりに出てきて怒られちゃったじゃねえか!」。
ちなみに、友達はオレンジ色のズボンを履いていなかった。
一体なんだったのだろうか?
ホラーゲームをやっているとたまに「呼ぶ」と聞くが、恐怖という空間がそうさせたのかもしれない。