昔聞かされた父ちゃんの話。
うちの父ちゃんは筋金入りのバカだったので、大学のサークルも「オカルト研究会」とかいうのに入って毎シーズン心霊スポットに凸ばっかりしていた。
2年の夏休み、その年はちょっと遠出をして岩手の「慰霊の森」に行こうという話になった。
メンバーは父ちゃん、同期、先輩×2で、4人を乗せた灰色のバンは夜の1時頃に目的地に到着した。
車を停めて、一行は懐中電灯片手に慰霊碑へ。
途中、足場が悪くて何度か転んだがそれ以外は特に何事もなく線香をあげて下山。
何も起こらなかったな、と談笑しながら4人は乗ってきたバンのもとへ。
乗り込んで、エンジンをかけたところで父ちゃんはションベンがしたくなったという。
ひとりの先輩とともに立ちションをしに降りた。
ややしてションベンを済ませ、車の方に向き直ると、車の上に何か居た。
そいつは車の上に仰向けに寝そべり、手や足をめちゃくちゃに振り回して激しいブレイクダンスを踊っているように見えた。
ただ、体中にやたらと多い関節がありえない方向に曲がりまくっていた。
しばらく呆然としてその光景を眺めていた父ちゃんだが、そいつが勢いのあまり車から落ちたところではっと我にかえった。
いつの間にかションベンが終わった先輩が横に居た。
父ちゃんが興奮気味に
「ヤバイっすね!見ました!?今の!すげえ踊り!」
と横を向くと先輩は
「ちげえよ、ありゃ千切れかけの手足振り回してただけだ」
と言って泣きそうな顔。
車の下ではまだなにかがバタバタともがいているようだったが、父ちゃんたちはそれを見ないようにして車に乗った。
因みに、あの事故で手足がちぎれそうになりながらも僅かの間生きながらえたような犠牲者はいない。
きっとあそこには事故犠牲者以外の何かが居る。