大学時代、Hと言う友人がいたんだけど、そいつんちは曽祖父が高利貸し、祖父は満州で何人も鮮人を殺し(三光ってやつ?)、父はバツイチで前妻との子を一人虐待の挙げ句死なせ、あと二人くらい流産させていたのだそうだ。
H本人も毎日のようにボコボコにされていた。
まあとにかく因業な家系だという。
で、九州から東京の大学へ進学してようやく親父から逃げられたと思ったが、積もり積もった業からは逃げられないみたいだと。
足のない兵隊や、苦痛に顔を歪める女や、形の曖昧な赤子や、焼け爛れた朝鮮人が、夜も昼も無く自分を責めたて、散々耐えてきたがもうダメだと。
ある時オレの部屋へ来たHは、まあこういうことを淡々と語り、そしてその直後失踪した。
他の連中のとこには行っておらず、何故かオレのとこにだけ来たらしい。
正直Hとはあんまり親しくなかったのに。
オレは友人達に何を話したか聞かれたが、なんかイヤだったんで具体的な内容は言わなかった。
六日後Hは友人S宅で保護された。
夜中、Sの家のドアを一定感覚で叩く音があり、出てみたらHだったという。
もう完全に狂っていた。
Hが見つかったってんで、すぐオレや他の連中もSの家へ行ったんだけど、Hはオレらの顔を理解し日本語を喋っているのに、会話が全く成立しない。
それが恐ろしくて恐ろしくて、ヒドイ話だがオレは顔も見ないようにしていた。
救急車呼んで、Hとはそれきり。
その後、Hと一番親しかったSにだけは、Hがオレに話した事を教えた。
するとSは驚いて、少なくともHの父親は何年も前に死んでると言う。
Hがオレに話したのは何だったのか?
今考えても意味がわからないし、狂気に触れた気がして色んな意味で怖かった。