俺は中学2年に転校するまでは沖縄で暮らしていた。
今から書く話は、その時の話し。
俺が空手の稽古で通う道場は、漁港のすぐ脇にあり道場以外の建物は、ほとんどが漁師さんの自宅だった。
その自宅の外れに、1件の妙なアパートが存在した。
そのアパートは2階建てで、上下に2部屋ずつあり1階の右手の部屋にだけ、クロス字に板が2本打ち付けられており、扉が開かないようになっていた。
玄関の両脇には花瓶が添えられ、扉にはお札のような物まで貼ってあった。
どうしても気になった俺は、稽古が終わった師範に聞いてみる事にした。
「この辺の人はみんな知ってるよ。」
そう言うと師範は話し出した。
その部屋にはアベックが住んでいた。
住んでいたアベックは、二人ともろくな奴では無かったそうだ。
二人とも家出同然で、その部屋に入居し、二人とも仕事もせずに部屋にこもり、たまに外で見てもシンナーのはいった袋を片手にふらついていたらしい。
そんな状態のために、関わり合いにはなりたくないので周りの人達は知らん顔をしていた。
しばらくすると二人に子供ができてしまった。
だが二人が気づいた時には、すでにおろせる時期は過ぎており、当然おろす金もない、産んで育てる事など到底出来はしない。
二人は必死に考えたらしい、そしてある決断をした。
この部屋で流産させようと、その計画はその晩すぐに決行に移された。
こんな場所では麻酔などありはしない、
その代わりに女にシンナーを吸わせ、意識をちらせ、男は行動に移った。
どうすれば良いのかわからずに男は、外へ外へ女のお腹を押し始めなんとか子供を出そうとしたが、そんな事をしても無駄だった。
次に男は1本のハンガーを取り出してきて、それをほどき1本のワイヤー状にしてから、先端を丸い輪っか状にした。
そしてその輪っかの部分を、女の子宮に押し込み中を引っ掻き回し始めた。
女は痛みのあまり叫びだし暴れ始めた。
男は怖くなり、自分もシンナーを吸い始めた。
シンナーを吸った事で、男の行動はエスカレートした。
何度やっても子供はでてこない、今度は逆の先端を、フック状にして女のお腹に刺し縦に裂きだした。
あまりの痛みに女は立ち上がり男を突き飛ばして、部屋から出ていった。
返り血をあびた男は、しばらくして女を追いかけた。
しかし女の姿はなく、そのまま男は町をさまよい始め、その途中で警官により保護された。
シンナーが抜けた頃、警官は事情を聞き出して慌てて漁港近辺を捜索し始めた。
漁民にも協力を要請し、アパートから続く血痕を追い湾の中を捜索した。
だが女が見つかる事はなかった。
月日が経過し、改装の終わったアパートに新たに二人の女の人が入居した。
しかし2ヶ月後二人は忽然と姿を消した。
部屋の荷物も残したまま突然。
漁民達はあの事件のせいだと、口々に噂した。
それでも大家は、女の人の保証人に荷物を引き上げさせ、新たな入居者を募った。
募集からすぐに新しい入居者が決まった。
今度も女の人で、米軍相手の飲み屋に勤める人だった。
仕事を終えて、部屋に戻り疲れていた事もありすぐに布団に入った。
そして眠りにつこうとした時、自分の横に人の気配を感じ、横を見ると女が背中を向けながら「スーハー、スーハー」と音をたてていた。
そしていきなり立ち上がり、悲鳴をあげた。
その後に赤ん坊の泣き声が聞こえてきて女の人はそこで意識が無くなったそうだ。
その時、朝の出港ににそなえて準備をしていた一人の漁師が、奇妙な光景を目撃した。
あのアパートの部屋から、女の人が手を前に差し出しながら、湾のほうに歩いていたのだ。
沖縄の方言で、霊に惑わされる、霊に引かれる、という行動を、「マヤーサレル」と言う。
漁師はそれを見て「まやーされてる」そう思い湾に入る手前で、女の人を引き戻し、頬を叩いて正気にさせたさせたそうだ。
この事件もあり、漁民達は大家にその部屋だけは貸すなと、半ば脅迫状態で了承させ、それからあの部屋の入り口は封鎖された。
事件後その漁港では、度々お腹を押さえながら湾に向かう女の人が目撃されるらしい。
以上。