知り合いの話。
戦前、彼の持ち山には焼き場が設けられていた。
浅い穴の上に櫓を組み、死人をそこで焼いていたのだそうだ。
魚や植物などと違い、動物の肉というのは焼かれるとかなり収縮する。
また腱や筋などは、高温では溶けてしまい千切れてしまう。
そのため焼く途中で手足は跳ねまくり、まるで暴れているように見えるのだという。
ある夜、彼が火の番をしていた時のことだ。
湿った音がすると、いきなり仏の右足が櫓の外に突き出された。
やれやれと思いながら突いて火の中に戻そうとすると、すぐ横に別の足が飛び出す。
それもまた右足だった。
その夜に焼かれているのは、中年の男一人のはずだった。
立ちすくんでいると、今度は女性の左手が飛び出してきた。
ゆっくりと後退り、燃え尽きるのを待つことにした。
櫓が灰になった跡に残されたのは、一人分の骨だけだった。
そんな体験をしたのは、後にも先にもこの時だけなのだそうだ。