俺には生き別れの双子の兄がいることは知っていた。
当時生活が苦しくて、生まれてすぐに里子に出したらしい。
その兄に大学入学が決まったときに街でバッタと会った。同じ顔だから間違いようがない。
兄も俺の存在は聞かされていたようだった。
「今日は忙しいから今度の日曜日に会おう」
そう約束して、その日は別れた。
日曜日。
兄が指定した喫茶店に入った。
小さな店内には、数人座れるカウンターと四人掛けのテーブルが二つ。
手前のテーブルに50代後半の男女が一組。
俺は生き別れの兄との再会に感極まって、席に付いたとたん。
「ウチに帰って来いよ。今はある程度裕福なんだ。俺もバイトとかするつもりだし、家族で暮らすべきだよ」
と、よく考えもしないで告げた。
「……」
兄は沈黙し、涙をポロポロと流し始める。
「お前には妹がいるんだ」
しばらくしてそう告げられた。
俺はすべてを悟った。
<解説>
里子に出されたのは兄では無く自分の方だった。