「弁天通り」の路線バス

「弁天通り」の路線バス 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

もう、かれこれ15年近く前になるが、国立の駅前に小さな事務所を持っていた。
通勤は雨の日は車、ふだんは当時流行った自転車通勤をやっていた。

ある晩、もう11時近くだったと思う。
自宅の立川に帰る途中に「弁天通り」という通りがある。
路線バスのコースになっていて、バスに出くわすといつも追いつ追われつのシーソーゲームになる。
その日もそうだった。
急ぎもしないで、抜きつぬかれつをやっていると「観音寺」というバス停に小学生くらいの女の子がたった1人でバスを待っていた。
(塾の帰りか。小学生もたいへんだな)と思うまもなくバスがきて、その子が乗り込んだようで、後姿がバスの窓越しに見えた。
そのままおれはバスの前に出た。

終点までバス停は2つだったが乗降客はなかったようで、終点の直前でバスはおれを追い越していった。
あいかわらず、その子は一番後ろにたった1人で乗っていた。
最終バスだから、バスは乗客を降ろして車庫に帰っていく。
当然、その子は降りるはずだ。
もう、その子しか乗客はいないのだから。
だが、運転手はドアを開けないままUターンして戻っていこうとする。
(え???)、おれはバスの内部に注目した。

いない。

バスの後部のあの場所にもだれも乗っていなかった。

その子が乗った「観音寺」のバス停は当時、後ろは梨畑、前は畑、その向こうは観音寺の墓地で薄暗い。
寺は低い里山の中腹にあるから、バス停からも墓地が見える。
その距離、200mほどか?

あの子は墓地からさまよい出て、バスに乗って家に帰り着こうとしたのだろうか。
それっきり、あの子には会ったことがない。

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