俺の中の良い友達の一人、Aの話。
Aは俺と同じ都内の某大学に通う学生で、常識人で頭も良く、そこそこ顔もかっこいい、いい人なんだけど、一つだけ他人とまったく違うところがある。
Aは外国製とおぼしきアンティーク人形を、なぜか自分の彼女だと思い込んでいる。
Aがその人形を何時から所有していたかはわからないけど、俺が初めて会ったときはすでに『彼女』がいたらしい。
Aの彼女が人形であるということを知った時はかなり驚いたけど、元々のAの友達はもう慣れっこである、という感じだった。
その他の友達もそのことを知っていて、そいつらはむしろそのことを面白がっているふしがあり、Aが彼女の話を出すと、俺やその友達達もAを持ち上げて、「おまえらいつ結婚するんだよw」などと騒いだりする。
そのせいか、仲の悪いやつには取り巻いてる俺らも一緒くたに気持ち悪がられる。
Aは上にも書いたように常識人で、普通に会話しててもなんら変なところはない。
その点を除けば精神的におかしいわけでもない。
もしかしたら、友達の間のネタにするためずっとこんなことをしているのかもしれない。
真相は本人か医者にしかわからないだろう。
Aはアパートで一人暮らしなんだけど、春頃に一度、他の友達と一緒にお邪魔させてもらった。
その時に初めて彼女と対面した。
彼女はピンク色の服を着て椅子に座っていた。
ロー○ン・メイ○ンのあれとは似ても似つかない。
無表情すぎて怖いくらい。
Aは俺たちとの会話の合間に、その人形と何か一人で話していた。
正直言うととてもキモかった。
でも、人形と話してる時のAはいたって正常な感じで、声も表情も普段通り。
だからこそ怖かった。
これが本物のキチガイかと思うと寒気がした。(友達だけど)
そのとき、一緒に来た友達とAの日記を盗み読みしたんだけど、そこでは人形との『幸せな生活』が赤裸々に語られていた。
それ以外書かれていなかった。
その中では、自分が『彼女と一緒にいられて幸せ』であるということがやけに強調されていて、まるでTORICKのスペシャルに出てきたカルト信者みたいだと思った。
たまには喧嘩することもあるらしく、日記の中でもその辺の描写がかなりリアルだった。
日記によると、時たま彼女の友達が遊びに来たり、休みの日は彼女を連れて外出することもあるらしい。外出るな。
先週、珍しく晴れた日に彼女とどこかの海に行ったらしく、Aが自分で着せたのだろうか、彼女が水着を着て浅瀬に立っている写真を何枚か見せてもらった。
A自身が写っている写真や、ツーショットの写真は一枚もなかった。
周りの海水浴客はどう思ったんだろうか、と思うと夜も眠れない。
Aには彼女は人間に見えているのだろうか、それとも人形に見えるのだろうか。
果たして…
ってか、今度あった時聞けばいいか。
俺も人形でいいから彼女ほしいよ。