私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。
少しずつアップしていきます。
ある時、ふと気になって祖母に聞いた。
「おじいちゃんは不思議な経験したことあるのかな?」
「一つ聞いたことがあるよ」
「どんな話?」
「おじいちゃんが二十歳くらいの時にね…」
仕事の都合で祖父はある小さな村にいた。
ひと月くらい逗留しているうちに、村の人々とも仲良くなった。
ある朝、川沿いを歩いていると空を見上げながら踊っている異様に小さいおばさんにでくわした。
「ははは! からす鳴きが悪い。△家で誰か亡くなるよ」
笑いながら叫んでいた。
嫌なものを感じた祖父は足早に通り過ぎた。
宿に帰ってから主人に尋ねると、主人は顔を曇らせながらぼそぼそと話し出した。
「あのおばさん村から少し離れた小屋に住んでいるんだが、三年前に息子をため池で亡くして以来おかしくなってな、からすの声を聞いては『○○で○○が死ぬ』といった不吉な事を言うようになったんだ」
主人はさらに続けた。
「恐ろしいことに、それが外れたことがないんだ…」
主人の言った通り、その日の夜△家のおばあさんが亡くなった。
それからも時々おばさんはカラスの声に耳を傾けては予言を行い、その通りに死人が出た。
祖父は見かけても近づかないようにしていたが、ある日、村はずれの一本道におばさんが立ちふさがった。
「ははは! もうあんたに遭うこともない。寂しいね」
といきなり告げられた。
頭上ではからすの群れが大声で鳴き声を交わしていた。
頭が真っ白になった祖父はその場を離れた。
なんとか宿に帰り着いたが何もする気が起きない。
ご飯も食べず机に向かうと家族に向けて最期の手紙を書き、主人に預けた。
横になり酒を飲んでいるうちに意識が遠くなっていった。
カァガァ、ガァカァカァ!
翌朝異常な鳴き声に起こされた祖父は自分が生きていることを不思議に思った。
その声を追うと、ため池の方角におびただしい数のからすが群れ飛んでいる。
ぼんやり見ていると主人がやって来てこう告げた。
「あのおばさん亡くなった。息子が溺れた同じため池で見つかったそうだ」
祖父は全身の産毛が逆立った。
「からすなぜ鳴くの…か。予言は当たっていたんだね」
祖母はそう言って話を終えた。
この話を聞いてしばらくの間、からすの声が気になって仕方がなかった。