私の地元は山岳地帯に位置し、険しい山道が多くあります。
田舎という事もあって山頂へ星を見に来る者も多く、流星群の時期になると地元の有名なスポットとなる場所があります。
その山の頂上から下山するルートは2つに分かれており、両ルート共に杉の木が立ち並び視界の狭い山道です。
山道は急カーブが続いており、安全の為舗装されてはいるもののガードレールが少なく危険がありますが、そんなルートですから車を愛する走り屋のコースとしても有名なのです。
そんな山道で、私はとても怖い体験をしたのでした。
ある夏の夜、私は星を見に行くべくその山の山頂まで友人達と車を走らせていました。
時間は蒸し暑い深夜の0時。窓を開け、たばこを吸いながら向かった先には満点の星空があり、存分に堪能して小一時間が過ぎていました。
そろそろ帰宅をしようとエンジンをかけ、東京方面へ降りれるルートを選択して帰宅を試みました。
いくつものカーブを抜け、夏の蒸し暑い生ぬるい空気がお世辞にも心地よいとは言えず、ただ黙々と山道を下っていました。
すると前に座っていた友人がカーブミラーに対向車のようなライトを感じたようで、速度を緩め端によけるよう指示しました。
しかし、一向に車は通りません。
車のエンジン音でも聞こえるかなと窓を少し余分に開いた瞬間、全員が背後から迫るオレンジ色の光に気づきました。
「急いで車出して。後ろは振り向かないで、絶対にミラー越しにも見ないで。」
霊感の強い家系に生まれたその友人からの突然の発言に、車内は凍りつきました。
私たちは急ぎながらも、安全運転に努めながら山道を下っていきます。
道中、視界には何度もオレンジ色の光がちらつく中、街中まで無事下山することができました。
「ここまでくれば大丈夫…でもないけど、まだ安心できる。家族に連絡して塩を用意してもらうわ。」
霊感の強い友人はそう言い放つと、少しの間沈黙をしてさらに口を開きました。
「2人いる。いたといった方がいいのかな?
あのカーブミラーの辺りからずっと、後ろの席に女性と小さな子供。車に乗ってきた。」
後ろの席といえば私が座っていました。
マジか…と思いつつも霊感ゼロの私には何も感じられないので、今もいるのか問い詰めると
「今もいるんだと思う。けどさっきよりハッキリ感じない。」
そんな車の後部座席に私はまた乗るのか…という思いもありましたが、車に乗らなければ帰れません。
とりあえず手を合わせてから車に乗り込み、霊感のある友人の自宅へ着くと母親が出て塩を私たちにかけてくれました。
「えらいもの連れてきてしまったね。親子かな?」
友人と同じ状況が見えている様子でした。
「とりあえず車からは降りているから、安心して帰りなさいね、気を付けて。」
それから霊はその家に数日間いたようですが、徹底した供養やお払いによって数日で事無きを得たようでした。
後に聞いた話ですが、その日私達が通ったルートでは親子が交通事故で亡くなっているらしいのです。
そして同一の場所で転落事故が多発していることも、走り屋の友人から聞きました。
「あのルートは俺らでも通らない。
必ず逆ルートか、もしくはそれよりも下の箇所からスタートをするというルールもある。」
有名な話だったそうですが、私達は知らなかったことで危うく危険な目にあっていたかもしれないと思うと、ゾッとせずにはいられませんでした。
「でも、憑いてきたくらいならその親子は何か伝えたいことがあったのでは。」
そのセリフを私は飲み込み、二度とそのルートを通らないようにしています。