心霊よりも人間の心の闇のほうがずっと恐ろしいと思いませんか。
これは、今から27年ほど前に、近畿地方南部某所(詳しい場所は、プライバシーに関わるので伏せさせていただきます)で、実際に起こった出来事です。
当時24歳だったOLのMさんは結婚を誓い合った男性を両親に紹介しようと自宅に連れてきました。
相手の男性は、建設業に従事する穏やかでとてもやさしい人でした。
しかしMさんは、自分の両親に男性を紹介するに当たって、ひとつだけ気がかりなことがありました。
それは彼が「ゆえなき偏見により昔から差別され続けてきた」土地で生まれ育ったということでした。
Mさんの実家はいわゆる由緒ある旧家で、両親は教員をやっていました。
私の親は、彼との結婚を許してくれるのだろうか。
世間体を考えて「そういう」人と付き合うのはやめなさいといわれるのではないだろうか。
Mさんは彼を両親に紹介するまで非常に悩んだそうです。
”その日”は、昼間の蒸し暑さが残る8月もおわりのころでした。
娘の連れてきた男性を両親は、とてもあたたかく迎えました。
彼の誠実そうな人柄に満足しているようで、若い二人の仲むつまじい様子を目を細めてみていました。
2時間ほど談笑した時、Mさんは意を決して両親に切り出しました。
「お父さん、お母さん・・・・、実はね・・・」
Mさんの話をすべて聞いた父親は、腕組みをしたまま目を閉じて何か考え込んでいます。
しばらくして顔を上げて言いました。
「よく話してくれた。
だが、今の時代、昔からの身分制度など本当にくだらなく意味のないものだよ。
お父さんも、いち教育者として学校では、常々差別することの愚かしさ、無意味さを生徒たちに説いてきたつもりだよ。
二人の結婚を心から祝福してやろうじゃないか。なあ、母さん。」
母親も頷いています。
Mさんは、安堵と喜びのあまり泣き出してしまいました。
父親と彼の二人は、早速お酒を酌み交わし始めました。
話はあれこれと弾み、時間はあっというまに過ぎてゆきます。
ちょうど夜の11時を過ぎたころでしょうか。
父親はかなりの量を飲んだため酔いがまわりブツブツ一人言をいい始めました。
テーブルにもたれかかり目が据わり、彼のほうをにらんでいます。
「・・・らく・・・た・・・せ・・・・」
「・・・らく・・た・・・くせ・・・」
Mさんと母親は父親の様子に異様なものを感じました。
これまで見たことのないすさまじい形相で彼を睨みつけています。
「・・・らくの・た・・・くせ・・・」
「・・ぶら・・の・た・・のくせに・・」
「・・ぶら・・・た・んのくせに・・」
「おまえは・・・おまえは・ぶ・・くの・た・にんの・・くせに・・」
そして、父親は家中に響き渡るような大きな声で叫んだのです。
決して口にしてはいけない言葉を。
人間として、教師として、父親として絶対にいってはならない言葉を。
最も唾棄すべき存在としての差別者に自分自身がなってしまったのです。
結婚は、とりやめになったそうです。
この話は先週、大学の友人(京都出身)から聞きました。
人間の心というものは・・・・。