タバコ

タバコ 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

20年以上前、隣の県の大学に通っていたが通学に時間がかかり過ぎる、と一人暮らしを始めた。

昼間、マンションの向かいの金物屋さんで必要な物を色々買い揃え、人の良さそうな店主が近所のスーパーや美味しいパン屋さんを教えてくれたりした。

夜中、初めての一人暮らしでテンション上がってなかなか寝付けず、100mぐらい先にあるコンビニ(但し24時間営業でもなく、
家族経営みたいな○マザキだったと思う)にタバコとビールを買いに行った。

当時は24時間自販機でタバコもビールも買えたんだよね。
するとコンビニの手前のお寺がこんな時間なのに明るくて数人の人もいるようだ。

お通夜か。
買い物を済ませて帰るところで、
「昼間のべっぴんちゃん!」
とお寺の縁台から声を掛けられた。

金物屋の店主だ。
うちの学生マンションに住む女の子は全員べっぴんちゃん、町のおばちゃん達はお嬢ちゃん、なかなかの遣り手。

おいでおいでしてる。

知らない人のお通夜なのにいいのかな、と思いつつその弔いの宴席に加わることになった。

どこから来たの?
いいねぇ若い時はいっぱい楽しまなきゃね、なんてとりとめない話をしながら奥に見えるご遺影がお若いのが気になっていた。
50歳前後かな?

すると金物屋がポツポツと話し始めた。
あの人ね、僕の同級生。幼馴染。
すぐ先で不動産屋の2代目だったのね。
男前でスポーツ万能、成績優秀でこの辺りで唯一東京の大学行ってね、綺麗な嫁さん貰って帰って来たの。

子供できたのは遅かったけど、幸せを絵に描いたような一家でさ。
それがバブル弾けてから経営が傾き出した頃に肺がんが見つかったんだよ。
経営状態がどんどん悪くなっていくのと同じように病状が悪くなってさ、遂に破産しちゃった直後に亡くなったんだよ。

あんな誠実で人気者だったのに悔しいねぇ、ご家族これから大変だろうね。
奥の祭壇のそばに、喪服を着た40代ぐらいの綺麗な女性が小学生ぐらいの2人の男の子を膝枕していた。

泣き腫らした顔で子ども達の頭を撫でている。

奥さんか。

全く知らない人だけどしんみりしてたら昼間のご陽気な店主に戻ってご供養だと思って飲んで飲んで、って近所のおっちゃん達と結構飲んで帰宅した。

月がやけに明るかった。

私の部屋は8畳のワンルーム、図面で言うと部屋の右下に玄関、右手壁沿いにユニットバスの扉、
その奥に半畳程のキッチン、玄関開けた正面に掃き出し窓。
玄関から見て左奥にはここに布団敷いてね、っていう台。
ベッドのつもりか?
下に引き出しが付いてて便利ではあった。

帰宅してパジャマに着替え、寝る前にタバコを一本吸った。
灰皿はやっすい居酒屋とかにあるような銀色のUFOをひっくり返し返したようなやつ。
吸いかけのタバコ置けるやつね。

当時の私はめちゃくちゃ神経質であり、かつめちゃくちゃザツなところもあり、友達からあんたよくわかんないわと笑われていた。

特に神経質だったのは水回りと火の始末。
掃除機かけなくてもキッチンは常に磨きあげるとか、どんな酔っ払ってベランダ体半分出たまま寝てても(暑かったようだ)
寝る前に吸ったであろう吸い殻はきちんと始末してるとか。

で、その晩もかなり酔っていたが火をちゃんと消して、吸い殻に少し水を垂らして、でユニットバスの前に灰皿を置いた。
なぜならユニットバスの扉の横にユニットバスと部屋の電灯のスイッチがあったので、例え夜中トイレ行きたくなって真っ暗の部屋電気付けに行っても灰皿蹴飛ばすことがないから。

その夜もユニットバスの前に灰皿を置いて寝た。

ふと突然目が覚めた。
体を動かさず少し左に目を向けると玄関が見える。
人が立っている。
窓と反対方向なので人影しか見えない。
ヤバイ!オヤジだ!タバコ見つかる!
お恥ずかしながら親に隠れタバコだった。
一瞬で気づいた。
オヤジのハズがないし、間違いなく生きてる人間ではない。

幽霊やったら怖いやん!
確かこういう時は気付いてないフリしたら帰って行くんじゃなかったか!
全力で寝たフリした。

う~ん、とか寝返り打ってみたり。
でも気になるからそちらの方に向いた状態で寝たフリ継続。

当然薄眼でガン見。

その人影は、歩くというより動く歩道に乗ってるような動きでユニットバスの前まで来て座った。
そこには灰皿と煙草ライターが置いてある。
胡座かいてる?

「一本貰うよ」

と中年男性の、キレイな声が聞こえた。
シュポッ、部屋が一瞬明るくなった。

チリチリチリ…

タバコが燃える音、タバコの匂い、私はそこで初めて怖くなった。
幽霊って煙を嫌うんじゃなかったっけ?
何かの気配がしたりいる!って感じたらタバコに火を付けると追い払えるんだよ!って自称視える人のツレゆうてたやん!

幽霊にしては、普通にしっかり一本吸いきったようだ。
ふぅ、って何か満足したような小さな声が聞こえて不思議とあぁ良かったね、って思った。

するとその人影は立ち上がってまた動く歩道の動きで窓際に行き、こちらを向いて

「一緒に行く?」

と言った。

その瞬間意識がなくなった。

翌朝、カンカン照りで暑くて汗だくで目が覚めた。
昨夜の出来事をすぐ思い出してうひゃあって身震いしたがかなりの二日酔い。

頭痛い。
喉乾いた。

酔っ払って悪い夢見たかーと思いきかせつつまずトイレ。
ユニットバスの扉を開ける時に見てしまった。
灰皿の吸いかけのタバコを置いておくところに、吸いかけのタバコを置いたまま根元まで灰になっている吸い殻を。

上でも書いたように、どんなに酔っ払っても火の始末、タバコの処理はする。
翌朝、した覚えなくてもしてる。

これは私が吸ったタバコではない。

すぐにシャワーを浴び、几帳面な母が持たせてくれた喪服を着て昨日お酒をよばれたお寺に行った。
ジャストお葬式が始まる時間だった。
その方がタバコを吸う人だったかどうかは聞いてない。
黒い人影のお顔も見てない。
手を合わせてお焼香して、それ以降怖い体験や不思議なことは一切ない。

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