男は3ヶ月前、
息子を轢き逃げで亡くしていた。
妻に先立たれ、男手一つで育ててきた息子だけが生き甲斐だった男は、犯人を殺したいほど憎んでいた。
犯人は捕まったが、これでは容易に復讐も出来なくなってしまった。
ある日、男は古本屋で「悪魔召喚」と書かれた一冊の本を手に入れた。
こんなモノを信じてはいなかったが、何も出来ない自分が許せなかった男は、悪魔を呼び出してみることにした。
本当に悪魔が現われた。
「お前の望みはなんだ?」
「息子を殺した奴に復讐がしたい!殺してやりたい!」
「前払いでお前の死を報酬として貰うが良いか?」
息子を失った男は、自分の命など惜しくはなかった。
「ああ、それで構わない」
「ならば契約成立だ」
数日後、轢き逃げ犯が謎の死を遂げたと聞いた男は、悪魔との契約の事を思い出した。
前払いで私の死ではなかったのか?
だが私は生きている・・・。
奴は悪魔に殺されたわけではないのか?
あの悪魔は嘘を吐いたのか?
そんな疑問を抱え数日が過ぎた頃、再び男の前に悪魔は現れた。
「契約は果たした、さらばだ」
「待ってくれ!
あんたは私の死を報酬にしたはずだ!
なのに、何故私は生きている?」
「たしかに報酬はお前の死だ。
勿論きちんと頂いた」
悪魔は笑いながら、最後の言葉を残して消えた。
解説
悪魔が報酬として指定したのは「死」。
「命」ではない。
つまり、
男は死ねない体になった。