私の父が施設にいた頃、父が散歩にでも出て、そのまま連絡が取れなくなっても困るので、携帯電話を持たせていた。
父はボケていた。
父に携帯を買い与え、アドレスを交換した頃は、
「これでいつでもお前と連絡が取れるなあ」
なんて言っていたが、どんどんボケが進行する父には、結局、メールはおろか電話さえも使うことが出来なかった。
ところがある日、私の携帯に父からメールが来た。
件名はない。
本文にただ、
「いわいわいわいわいわいわいわいわいわいわいわいわいわいわ」
と打たれている。
はぁ?と思った。
意味が分からない。
と言っても、ボケた父のことだ。
意味などないのだろう。
そう思っていると、また父からメールが来た。
今度も件名はない。
本文に、
「いらいらいらいらいらいらいらいらいらいらいらいらいらいら」
と打たれている。
何のことやら。
結局、ボケた父が訳も分からず携帯を操作しているうちに、私にメールを送信してしまったのだろうと思って、放っておいたのだが、まさかこれが父からの最後のメールになるとは・・・。
その日、父は施設で大暴れをし、階段から転落して亡くなったそうだ。
もしや、二件目のメールの「いらいら」とは、何かいらいらすることでもあって、私に伝えたかったのだろうか?
あの時、私がしっかりとメールを返していれば、父も暴れたりすることはなかったのかも知れない。
<解説>
メール作成画面を起動した父は、「110」と「119」を押して通報しようとしていた。
1→1(あ→い)
0(わ)
1→1(あ→い)
9→(ら)
つまり、施設で虐待が起きていた。