都会の人には馴染みが無いかもしれないが僕の実家周辺にはよくネコムシが出没した。
体長最大で4~5cm。
茶色のしましまのカラーリング、毛深く異常にパンプアップした後ろ足、長い触覚、脅威の身体能力。
大体アレは昆虫なのか?何で羽が無いんだ?
しかも何で肉食なんだ?
家の犬のドッグフード食ってんじゃねー!!!
俺の全細胞が奴を拒絶する。
俺の高校時代の校長が全校集会の時そのネコムシを集めるのが趣味だとか言っていて、その一言で俺は彼の全人格を否定した。
まあ何が言いたかったというとそれくらいそのネコムシが嫌いだったのである。
今回はそんなネコムシの俺がかつて体験した話しをする。
あれは俺が中学の時だった。
夏の暑い夜…。
俺の実家にはクーラーが無いのだ。
田舎にクーラーは要らないと言う父親の方針だが田舎だろうが夏は暑い。
暑くて寝れない時だってある。
したがって夏になれば必然的に夜はパンツ1枚だ。
そんな深夜、俺は居間でテレビを見ていた。
うだるような熱帯夜。
しっとり汗ばむ肌。
ふと俺は太ももに違和感を感じた。
何?何か触れている。
ちくちくする。
わさわさわさ。
何か動いてる。
なんだ?これは何かヤバイものだ。
俺の5感が早鐘のように警告を鳴らす。
俺は見た。
ピキーン。びくびくびく。
太ももにネコムシが。
ぎゃー
俺は全力で振り払った。
すっとぶネコムシ。
しかし奴は強暴だ。
逃げれば良いのに俺に向かってその異常なジャンプ力で迫ってくる!
ぎゃー
逃げ惑う俺。
ゴキブリは滅多に飛ばないがネコムシは羽が無いのに意味不明にやたらジャンプするので性質が悪い。
まさに尻に火がついたようだ。
しかもその動きは俊敏で仕留めるには熟練の技を要する。
普通の攻撃では奴にかすることも出来ない。
まさにニュータイプ。ピキーン。
残念ながら当時の俺には成す術が無かった。
闇雲に雑誌をネコムシに向かって投げた。
普通だったら絶対に当たるはずは無い。
しかし最後に投げた電話帳が見事にネコムシを押し潰したのだ。
まさに神の思し召し。
俺は思わずのんのんさんにナムナムした。
しかしその後ナムナムした神が死神だった事に気付く。
「ふぅ。こいつが鈍いネコムシで助かった。
それともこいつ太り過ぎか?」
俺は電話帳をどけた。
半分潰れかかって体液や臓器が飛び出した体が姿をあらわす。
艶やかな身体から流れ出す、まるで高級フランス料理のソースのような白濁とした体液。
クリーミーですらある。
所々に見える茶色い物は何だろう。
シェフの拘りスパイスか?グルメまっしぐら。
ぉぇ。
俺は仕留めた満足感から半死半生のネコムシを放置した。
このダメージならまず助からないし、生ゴミと化した死骸は明日母親に捨てさせれば良い。
そう思ったのだ。(ひでえ奴だと思われてもキモイものはキモイ。)
それから数分感俺はそのまま居間でテレビを見た。
違和感。
眼の端で何か動いてる。
ネコムシ?まさか?あのダメージでは数分と待たず死ぬはず。
俺は潰したネコムシを見た。
ネコムシは確実に死んでいる。ぴくりともしない。
だがなんと潰れた内臓を食い破って中から宿主を失ったハリガネムシが這い出てきていたのだ。
(説明しよう。ハリガネムシとはカマキリなんかに寄生してる線虫形状の寄生虫の事だ。
色は乳白色で太さは1㍉~2㍉くらい。
体長は長いのになると10㌢くらいになるんだ。
名前の由来は細くて長いその身体にあるんだけど実際に棒なんかで突ついてみるとびっくりするくらい固いんだ。)
ぅお!俺は叫んだ。
ブチュ…クチュ…。
乳白色のハリガネムシが次の宿主を探さんとネコムシの周りを一心不乱にのたくってる。
まるで制御不能の狂ったねずみ花火。
その暴れようは凄まじくハリガネムシ必死だな。
などと突っ込みも入れられないまさに地獄絵図。
阿鼻叫喚。恐ろしい光景であった。
そしてハリガネムシの全長はもっと恐ろしいことに10センチ近くあった。
こんな長いものが全長役4㌢のネコムシの一体何処に潜んでいたと言うのか。
これをオカルトと言わずして何がオカルトか。
ちなみにハリガネムシは人にも寄生するらしい。
恐ろしい。
そう言えば昔投稿特報王国と言う番組で「珍しい生き物を発見した!新種?!」とか言って普通にバケツの中で泳ぐハリガネムシが出てた時はびっくりした。
発見したおっさん普通にさわってたし。
ぉぇ。
最近は寄生虫を新種だとか言ってゴールデンタイムに流すのか。
あんなもん新種でも何でもない。
話しはそれたが結構ユニークな奴である(くねくね)
俺はたまたま近くにあったオキシドールをそのまま奴にぶっかけた。
でも余裕でハリガネムシは生きている。
奴は強靭だ。
他人(人じゃないけど)に寄生してる(文字通り)ヒモのような奴なのに一向に弱る気配を見せない。
仕方ないので次に俺は復方ヨードグリセリンを原液のままぶっかけた。
しばらくもだえてたが奴は驚くことに20分以上のたくって死んだ。
俺は奴との死闘を終えその敗者をそっと胸の中で称えた。
亡骸は自らの手で。と思い(流石に手で触るのは嫌だったので)下敷きですくって窓から投げた。
ネコムシは窓から勢いよく外に出たがハリガネムシは窓ガラスに茶褐色のルゴールと共にへばり付いた。
キモイからそのままにして寝た。
次の日の朝母親に、情けなく縮んで干乾びたハリガネムシをこれは何?と聞かれたがカップラーメンのカスだと答えた。
母親は納得したようだった。
すがすがしい朝だったが俺は今日も暑くなるなとなんとなく思った。
おしまい
補足。
ネコムシは俺の田舎での呼び名で一般的にはカマドウマと呼ばれている虫です。
あとハリガネムシは基本的に水辺に生息しています。
カマキリなどに寄生したハリガネムシは機が熟すと宿主を操って水辺に連れていき腹を食い破りそのまま水中で生活を始めるそうです。
なぜカマキリは水辺に行ってしまうのかまだよく分かってないようですが頭も乗っ取ってしまうのでしょう。
ハリガネムシを見たければカマキリ数匹捕まえて水辺に持っていけば腹を食い破って出てくるそうです。お試あれ。